2003.10.31

テクニカルニュース

防災・減災

新発想から生まれた3つの防耐火システム!~防耐火性能の向上と自由なオフィスレイアウトを両立~

 建築基準法の性能規定化(2000年)に伴い、部材の性能だけではなく、建物の性能に基づく火災安全設計が普及しつつあります。また、不動産の流動化により、将来的な用途変更やレイアウトの自由度が高いオフィスビルへのニーズは、今後も高まると考えられます。

 こうした状況を踏まえ、当社は、以下の3つの新しい防耐火システムを開発しました。

  1. 火災フェイズ管理型防災システム
  2. ドレンチャー水幕型防火区画システム
  3. 新しい耐火設計概念・設計システム

 それぞれが、火災の進展状況に応じて、避難安全性・延焼拡大防止性・構造安定性などの防耐火性能を高度化して安全性を確保するとともに、オフィスビルのフレキシビリティを長期にわたり保つことができる最新の防耐火技術です。すでに防火性能評価※1および消防防災システム評価※2を取得し、実用化第一号として当社技術研究所 新本館(2003年10月竣工)に適用しています。

 3つのシステムは、個別に採用することはもちろん、組み合わせることも可能です。また、新築だけではなく、スペースの都合で従来の防耐火設備を取り入れることが難しい既存施設の防災リニューアルにも適しています。当社は、お客様のニーズにあわせて最適な防耐火システムを提案し、より一層安全で安心な建物を提供します。

火災進展と防災設計

日本建築センターで防火性能評価を取得し、国土交通省から大臣認定を取得しています。

消防設備安全センターから消防防災システム評価を取得しています。

≪お客様メリット≫

  • 火災時の安全性を低下させずに、オフィスレイアウトの自由度を高めます。
  • 「火災フェイズ管理型防災システム」は、火災発生から避難開始までの時間を大幅に短縮し、煙に妨げられることなく安全に避難できます。
  • 「ドレンチャー水幕型防火区画システム」は、従来の防火シャッターやスチール製扉が不要となり、スペースの有効利用につながります。
  • 「新しい耐火設計概念・設計システム」は、建物の構造全体で耐火性能を評価することで、耐火性能を損なうことなく耐火被覆を省略し、建設コストを削減します。

1. 避難安全性向上の要「火災フェイズ管理型防災システム」

 消防法に適合した感知器や受信機などの「自動火災報知設備」と、火災の状況を判断する「火災進展予測装置」で構成されます。火災による煙や室内温度の上昇をリアルタイムに監視することで火災を早期に判断し、避難誘導のための非常放送設備や防火シャッターなどの防災設備を適切に連動制御します。これにより、個々の防災対策の統合化を図り、避難誘導の早期化や火災の被害拡大を最小限に抑えます。

火災フェイズ管理型防災システム概念図

火災進展予測装置
火災進展予測装置画面

R型受信機など
R型受信機 他

■具体的な適用効果(例:当社技術研究所 新本館)

  • 火災発生から避難開始までの時間を従来(約8分間)の約2分の1に短縮しました。
  • 早期避難が可能なため、建物全館で排煙設備の設置が免除されました。この結果、天井裏や各階を貫通するダクトスペースが一切不要となり、間仕切り変更などのレイアウトに対する自由度の高い空間を実現しました。

平成15年度優良消防防災システム消防庁長官表彰を受賞。

当社が蓄積してきた火災に対する各種データや知見をベースに、松下電工(株)が保有する各種センサー技術を融合し、共同開発しました。


2. 場所をとらずに延焼を防止「ドレンチャー水幕型防火区画システム」

 火災発生の危険性が低いエレベーターホールや通路などの天井面にドレンチャー*を設置し、火災時にはドレンチャーからの放水による水の幕で防火区画を形成します。火災からの放射熱や熱気流を遮断して室内温度を下げ、建物内の延焼を防止します。

ドレンチャー:一般的には建物外壁面に設置され、火災時の延焼防止に用いられます。

ドレンチャー型水幕防火区画システム概念図

■具体的な適用効果(例:当社技術研究所 新本館)

  • 従来の防火シャッターやスチール製防火戸は不要となったため、ダクトとシャッターの取り合いを調整する必要がなく、防火区画形成が容易になりました。
  • 火災時の遮熱性や作動信頼性が向上し、延焼防止性の高い建築物となりました。

従来の簿価シャッターとの比較

能美防災(株)と共同で開発し、当社が実用化しました。さまざまな放水方式に対する火災実験で水幕の効果を確認済みです。


3. 建物全体で耐火性能を評価する「新しい耐火設計概念・設計システム」

 従来のように建物の耐火性能を柱や梁などの「部材単位」で評価するのではなく、建物全体の骨組みといった「架構全体」で評価する新しい概念を実建物に適用します。一部の部材が火災で損傷しても架構全体が壊れないことを独自の3次元解析システムで確認するもので、シミュレーション結果をもとに、建物の耐火性能を損なうことなく、耐火被覆を省略することができます。

■変形解析(例)

当社技術研究所 新本館:独立柱の上に免震装置をつけた「柱頭免震構造」の上にケージ状(鳥かご)の建物本体を載せた構造

平常時の架構
平常時の架構

火災により変形した架構
火災による変形をシミュレーション
(上図は変形を強調して表現しています)

耐火被覆を省略できる箇所

上記のシミュレーション結果から、赤い点線部分については耐火被覆を省略できることが確認できます(反対側の面も同様です)。

■具体的な適用効果(例:当社技術研究所 新本館)

1階の柱頭に設置した6台の免震装置のうち中央の2台を無耐火被覆とし、また外周部の鉄骨間柱の無耐火被覆化により、耐火塗料等の耐火被覆を3,000m2省略することができ、施工性の向上とコストダウンを実現しました。


当社技術研究所 新本館への適用

 当社は、創業200年の記念事業の一環として技術研究所新本館を建設しました。新防耐火システム「火災フェイズ管理型防災システム」「ドレンチャー水幕型防火区画システム」「新しい耐火設計概念・設計システム」を採用し、防耐火性能の一層の向上と執務スペースのフレキシビリティを実現しました。

■建築概要

建設地 江東区越中島3-4-17
用 途 事務所
延床面積 9462m2
階 数 地上6階
高 さ 最高27.6m
構 造 鉄骨造、
一部鉄筋コンクリート造
工 期 2002年9月~2003年10月
設計・施工 当社

技術研究所新本館 パース図
技術研究所 新本館 パース図