2004.09.27

テクニカルニュース

維持・保全

居ながら耐震改修、「免震レトロフィット」が好評!

今回は、震災時に建物を保護するだけではなく、建物内の資産の保護や機能維持を実現する免震化による引越し不要の「居ながら耐震改修工事」についてご紹介します。

「免震レトロフィット」と呼ばれるこの構法は、既存建物の基礎部分または中間層に免震装置を組み込み、地震の揺れが建物に直接伝わらないようにするもので、旧基準で建てられた建物を地震に対して安全な建物に更新することができます。一般的な耐震補強に比べ、より震災後の機能維持を重視した耐震改修構法です。

当社は業界トップクラスの免震レトロフィットの実績からそのノウハウを生かし、お客様の条件にもっとも適した耐震改修工事をご提供いたします。

「免震レトロフィット」のイメージ
建物を使用しながら耐震改修ができる「免震レトロフィット」のイメージ

■免震レトロフィットによる耐震改修のメリット

  • 地下部分(免震層)に免震装置を設置するため、工事に伴う引越しが不要で、建物を使用しながら耐震改修工事ができます。
  • 改修後は建物がゆっくりと揺れる「免震構造」になるため、家具や機器の転倒を防ぎ、 地震直後も建物・施設の機能を維持できます。
  • 建物上部構造をブレースや壁などで補強する必要がないので、建物のデザインを損ないません( 歴史的・文化的価値の高い建物をそのまま地震から守ります)。
  • 建物の長寿命化をはかり地球環境にも配慮した構法です。

「居ながら免震」の最新事例:厚木市庁舎の耐震改修工事

厚木市庁舎では、耐震改修工事として免震レトロフィットを採用することで、「耐震安全性」を確保するとともに、「建物の長寿命化」による省資源や財政負担の軽減を図っています。また、仮設庁舎を必要としない「居ながら工事」を前提に、引越しの費用がかからないようにしています。

さらに、改修工事後は免震構造の建物になることで、被災後でも市庁舎としての機能を維持することができ、地域の防災拠点として機能することが期待されています。

※耐震改修工事と同時に内装、外装のリニューアルも一部行われています。

●免震構造と耐震構造の地震による揺れの違い

改修前のイメージ
改修前:地震の揺れは直接建物に伝わります

改修後のイメージ
改修後:建物は免震層で地震の揺れを切り離します


■免震化による耐震改修のポイント

庁舎の機能を維持し、日常業務を継続しながら工事を進めています。工事中も地震に対して工事前と同程度の耐力を確保しています。

●改修工事中の庁舎・利用者への配慮
正面玄関、通用口を工事中も確保し、スロープも設置します。作業者と利用者が重ならない動線計画により安全を確保します。

●既存埋設配管・インフラ設備のトラブル回避
埋設配管については図面調査とあわせて先行試掘、非破壊検査、(X線透視・超音波)により事前に位置を確認します。確認の困難な部分は手作業により解体を行います。

厚木市庁舎
厚木市庁舎


使いながらの改修(正面玄関)


天井の改修を終えた一階部分を使いながら地下では耐震改修が進められています。


■建物の条件に合ったベストな免震構造

厚木市庁舎では免震装置として「鉛プラグ入り積層ゴム」と「すべり支承」の2種類を配置して、地震時に建物がゆっくりと揺れるように計画されています。鉛プラグにより地震後に建物の揺れを吸収し、すべり支承は建物の重さを受けながら、すべりにより地震の揺れを低減させるしくみになっています。

また、地下室部分と基礎部分のレベルの違いには既存の基礎下部に免震装置を設置する「基礎下免震」と、地下2階の柱下部を切り離して免震装置を設置する「柱脚免震」を組み合わせることで対応しています。これにより工事に伴う掘削土を少なくしています。


鉛プラグ入り積層ゴムアイソレータ


すべり支承

徹底した管理
免震装置の取付中は、各柱ごとに沈下計測を行い、最大変位2mm以下を目標に管理しています。実際は1mm程度と非常に高い精度で設置工事は終了しました。


既存の基礎下に設置された免震装置
(鉛プラグ入り積層ゴムアイソレータ)


■建物概要

場  所 神奈川県厚木市中町3-17-17
建築面積 1,469.852m2
延床面積 9,013.002m2
規模・構造 地下2階 地上5階 PH1階・RC造
竣工年 1971年(昭和46年)2月(耐震改修までの経過年数32年)

■免震改修工事概要

工事名称 市庁舎免震改修工事
発注者 厚木市
設計・監理 厚木市都市部 建築工事課
株式会社佐藤総合計画
施  工 清水・トーシン特別共同企業体
工  期 2003年8月11日~2005年1月31日
免震装置 鉛プラグ入り 積層ゴム(アイソレーター)28か所
すべり支承 12か所

業界トップクラスの免震レトロフィットの実績

当社は日本初の免震レトロフィット工事である国立西洋美術館から現在まで、学校、市庁舎などさまざまな用途の建物の免震レトロフィットを実施しています。

免震レトロフィットを取り入れた建物は、現在日本全国で約50棟あり、当社はそのうち9件を施工しており業界トップクラスの実績があります。さらに数件の免震レトロフィット工事を予定しています。

●主な実績

厚木市庁舎
竣工年: 1971年
改修年: 2005年
中央合同庁舎第3号館
竣工年: 1966年(1期)
1973年(2期)
改修年: 2002年

京都大学百周年時計台記念館
竣工年: 1925年
改修年: 2003年
中部大学9号館改修
竣工年: 1966年
改修年: 1997年

東日本建設業保証本社ビル
竣工年: 1972年
改修年: 2001年
大阪市中央公会堂
竣工年: 1918年
改修年: 2002年

日本工業倶楽部会館
竣工年: 1920年
改修年: 2003年
国立西洋美術館本館
竣工年: 1959年
改修年: 1998年

鎌倉の大仏は免震構造

工事は当社により坐像の下にステンレス鋼板を取り付け、大地震時には御影石の台との間を坐像が自由に滑ることで揺れを防ぐ構造となりました。これがわが国の文化財の免震化第一号でもあります。

鎌倉にある高徳印阿弥陀如来坐像(鎌倉の大仏)は1959年から2年間にかけて補強工事が行われました。