2008.07.08

テクニカルニュース

省エネ

「PCM躯体蓄熱空調システム」蓄熱性能2.5倍、省スペース!!

当社は、従来比2.5倍という高い蓄熱性能を誇る空調システム「PCM躯体蓄熱空調システム」を、(株)ジャパンエナジーと共同開発しました。

本システムは、当社が開発した床吹出し空調システム「フロアフロー」の二重床内に、蓄熱素材としてパラフィンを採用した「PCM蓄熱材」を収めた点が特長です。高い蓄熱性能により外部蓄熱槽の設置が不要となるなど、大幅な省スペース化を実現します。そのため、スペースに制約があるビルにも導入可能です。また、一般的な空調システムに比べて、ランニングコストを35%、消費エネルギーを10%低減することができます。

現在、当社では、技術研究所 遠心実験棟に本システムを試験導入して性能検証を行っており、2009年度中の実用化を目指しています。

躯体蓄熱式空調システムは、料金が安い深夜電力を使って建物の躯体コンクリートに冷熱を蓄え、日中にコンクリートからの放熱で空調するシステムです。従来のシステムは、躯体コンクリートだけでは蓄熱量が足りず、氷蓄熱など外部蓄熱槽を併用するため、蓄熱槽の設置スペースが必要でした。

PCM…Phase Change Material(潜熱蓄熱材)の略。蓄熱と放熱を繰り返す物質を用いた蓄熱材。


PCM蓄熱材の設置状況(施工中)


システムを適用した技術研究所 遠心実験棟

●システムの特長

  • 従来比2.5倍の蓄熱性能。
  • 外部蓄熱槽が不要。スペースに制約がある既存ビルのリニューアルなどに最適。
  • 非蓄熱式の一般的な空調システムに比べ、ランニングコストを35%、消費エネルギーを10%低減することが可能。


PCM蓄熱材と全面床吹出し空調システムを融合

本システムは、新開発の「PCM蓄熱材」を全面床吹出し空調システム「フロアフロー」の二重床内に配置し、蓄熱材と躯体コンクリートの全体で効率よく蓄熱するシステムです。蓄熱性能が高いため、蓄熱量の不足を補う外部蓄熱槽が不要であり、スペースに制約があるビルやリニューアルなどにも適しています。

■システムの概要

夜間は、環境負荷の小さい深夜電力を使って冷却した空気を二重床内へ送り込み、PCM蓄熱材と躯体コンクリートを冷却します。昼間は、室内の空気を二重床内に循環させ、PCM蓄熱材と躯体コンクリートにより冷やされた空気を室内に戻すことで冷房を行う仕組みとなっており、空調機による冷房運転をせずに室内冷房を行うことができます。また、昼間の室温調整は、二重床内への循環空気量を制御することで行います。


夜間蓄熱モード:二重床内に冷風を循環させ、PCM蓄熱材と躯体コンクリートに蓄熱


昼間放熱モード:室内の空気を二重床内に循環させ、PCM蓄熱材と躯体コンクリートにより冷やされた空気で冷房を行う

■PCM蓄熱材にはパラフィンを採用

PCM蓄熱材には、ロウソクやワックスの原料となるパラフィンを採用しています。パラフィンは、約20℃の融点で液体・固体に変化し、蓄熱と放熱を繰り返す「潜熱蓄熱物質」の一つで、氷に比べて融点が高いのが特長です。


PCM蓄熱材は、形状を薄い板状(長さ440 mm×厚さ15 mm×高さ70 mm)にして表面積を大きくすることで、循環空気との熱交換がスムーズに行われるよう工夫している


業界最高水準の蓄熱性能(従来システムとの比較)

■従来比2.5倍の蓄熱性能

本システムは、躯体コンクリートとOAフロア、PCM蓄熱材を合わせた蓄熱性能を有しています。躯体コンクリートに蓄熱するだけの従来の躯体蓄熱システムと比べて2.5倍の高い蓄熱性能を実現しています。

蓄熱量の比較:実験結果を元にシミュレーションにより算出。10時間蓄熱、PCM9kg/m2敷設時

■空調機による冷房運転は不要

従来の躯体蓄熱システムでは午後のピーク時に蓄熱量が不足しますが、本システムではPCM蓄熱材と躯体の放熱だけで負荷をまかなうことができ、空調機による冷房運転が不要になります。


躯体蓄熱のみの場合は、昼間、特に午後のピーク時には冷水が必要となる(オレンジ色の部分)


本システムを適用した場合は、昼間もPCM蓄熱材と躯体の放熱だけで負荷がまかなえる

■開発者の一言


技術研究所
中村研究員

躯体蓄熱空調システムは10年ほど前に開発されましたが、躯体だけの放熱ではピークカットに十分に対応できず、氷蓄熱・水蓄熱など他の蓄熱システムとの併用が電力会社から義務付けられました。本システムはこの欠点を補うべく開発を行いました。

本システムは幾つかの特長がありますが、床全面を空気が通過し、床下の蓄熱材に均等に熱交換可能な当社の全面床吹出し空調システムとのマッチングがベストであり、他社に無いシステムとなっています。

今後は低環境負荷の夜間電力を利用するシステムとして、実用化に向けて開発を進めていきたいと思います。