2011.10.26

テクニカルニュース

健康・快適

高齢者見守りシステムを開発

当社は、高齢者介護の質的向上と負担軽減を目的に、センサーを用いて居室内の高齢者の行動を見える化し、ベッドからの転落など緊急時には自動的にナースコールを発報させる介護支援システム「高齢者見守りシステム」を開発しました

本システムは、居室内の天井隅に設置した3次元距離センサーにより、高齢者の位置や動きを3次元空間座標として検知し、その情報を元に高齢者の行動をリアルタイムに認識するものです。ベッドからの起き上がりや転落、離床(立ち上がり)などの行動を認識することが可能で、緊急時には既存のナースコールを用いて介護者へ通知します。また、カメラを用いる従来の監視システムとは異なり、高齢者のプライバシーを確保しつつ精度の高い見守りを行うことが可能です。

国内における要支援者、要介護者の数は450万人に達しており、十分な数の介護者を確保することが難しい状況となっています。今後、当社は、介護者の負担を軽減し、介護サービスの質的向上を図る本システムを医療・福祉施設に積極的にご提案していきます。

日常生活動作(ADL)の推定について、(独)東京都健康長寿医療センター、(社)科学技術と経済の会と共同研究を行いました。


実験風景


天井隅に設置した3次元距離センサー

●「高齢者見守りシステム」の特長

  • 入・退室、入床、離床、ベッドからの起き上がりや転落、離床(立ち上がり)を認識することができます。
  • ベッドからの起き上がり認識は徘徊の事前防止に、またベッドからの転落、離床(立ち上がり)の認識は迅速な事故対応に有効です。
  • 監視対象を映像としてではなく、座標として検知するため、高齢者のプライバシーを確保しつつ精度の高い見守りを行うことができます。
  • 3次元距離センサーは赤外線を用いる方式のため、消灯後でも見守りが行えます。

シンプルな機器構成で、プライバシーに配慮した精度の高い見守りを実現

「高齢者見守りシステム」は、居室の天井隅に設置した3次元距離センサーと、センサーがとらえた高齢者の位置や動き、スピードから行動を推測するプログラムで構成されたシンプルなシステムです。既存のナースコールを接続することで、緊急時には自動的に介護者へ通知を行うことができます。

またLANと接続して、サーバーでコントロールするシステムを構築し、ナースステーションで入床・離床などの管理をすることができます。


システム構成

■高齢者を3次元座標として検知

3次元距離センサーは、照射した赤外線が戻ってくる時間を計測することで対象物との距離を算出する測定器です。移動体を1秒間に20回検出することができます。

本システムでは、センサーで取得した距離情報をもとに居室の高さや奥行きなどの3次元座標データを作成し、赤外線の反射時間が変化した照射方向と反射時間から室内にいる高齢者の3次元座標を検知します。

監視対象を3次元座標として検知するため、従来のカメラ映像による監視とは異なり、高齢者のプライバシーを確保しつつ精度の高い見守りを行うことができます。また赤外線を用いる方式のため、消灯後でも見守りが行えます。


センサーで取得した3次元距離画像:赤色はセンサーから近く、青色はセンサーから遠い。中央の黄色部分に起き上がりの状況を確認できる


高齢者の頭位置を示す「頂点」の高さと平面位置の二重チェックで誤作動を防止

プログラムは、高齢者の頭の位置を示す「頂点」の座標の動きとスピード、ベッドの平面位置との関係から、その行動を認識します。認識できる行動の種類は、入・退室、入床、離床、ベッドからの起き上がりや転落です。

誤作動を防止するため、プログラムは「頂点」の高さと平面位置を二重チェックします。例えば、頂点の高さが「起き上り」の閾値を越えて、かつ平面位置がベッド内の時は、「起き上り」と判定します。また、誤報を減らすために布団を跳ね上げただけで起き上がったと認識しないよう、同じ状態が1秒以上続いた場合に起き上がりと認識するよう、行動パターンを細かく分類して判断の精度を向上させています。


頂点高さの推移


平面での頂点・重心位置の変化

■プログラムが認識する高齢者の行動(例)


ベッドからの起き上がりの認識:頂点(頭)の座標が徐々に上がり設定した高さを超えてかつ、ベッド領域に留まっている時間が1秒以上経過。起き上がりの認識は、徘徊の事前防止などに有効


ベッドからの転落の認識:頂点(頭)の座標が突然設定を下回りかつ、座標がベッド領域外へ出る。転落の認識は、迅速な事故対応に有効


介護者の入室認識:ベッド上の頂点(頭)以外に、新たに頂点(頭)を認識。介護の必要度を日常生活から判定するために有効

■開発者の一言


技術研究所
平林プロジェクトリーダー

家族が見守るように、高齢者の振る舞いを見逃さずに暖かく寄り添うようにしたい。そして、「転ばぬ先の杖」として先取りした対応ができるようにしたい、という想いで開発を進めてきました。

高齢者を介護する施設では、介護スタッフは現場を走り回るように対応しています。各種センサがナースコールと連動していますが、誤報が多くスタッフの作業負担を増していることを目の当たりにしました。

このシステムを発展させて、緊急通報だけでなく自立支援を促すため日常の生活動作を推定するシステムの開発も進めています。高齢化率が益々増加する状況の中で、家族やスタッフが安心できるシステムとして、国内にだけでなく海外にも貢献できればと思っています。