2012.10.18

テクニカルニュース

維持・保全

塗るだけで、壊れにくいコンクリート構造物を実現

当社は、樹脂の吹き付けによるコンクリート構造物の補強工法「タフネスコート」を防衛大学校、三井化学産資(株)と共同開発、3年後の実用化を目指しています。

東日本大震災では、地震と津波によって防波堤や橋桁など、多くの土木構造物が甚大な被害を受けました。また、首都直下地震や東海・東南海・南海の連動型地震の発生が危惧されている中、既存土木構造物の被害を軽減できる補強技術の開発は急務と言えます。

本補強工法は、「ポリウレア」と呼ばれる樹脂でコンクリート構造物の表面を薄く被覆することで、部材の変形性能を飛躍的に向上させるものです。補強効果の大きさはもちろん、樹脂を吹き付けるだけという施工性の良さや、被覆後わずか30秒で硬化し、30分後には補強効果が現れるなどの優れた特長を持ちます。

本工法が実用化されると、既存構造物でも破壊が生じにくく粘り強い、変形追従性能に優れた構造物に生まれ変わります。将来的には、桟橋や石油タンクの防油堤、橋梁、高架橋などへの適用が可能です。

現在、当社および関係各社では、各種実験などを通じて構造物の補強設計に必要なデータを収集しており、3年後の実用化を目指しています。


ポリウレアを被覆したコンクリート構造物は、通常であれば損壊するような力を加えて大きく変形させても、粘り強く耐えようとする


200%伸びても破断しないポリウレア

タフネスコートは、ポリウレアの持つ強力な復元力を利用してコンクリート構造物を補強するものです。ポリウレアを被覆した部材は、荷重をかけるとゴムのように粘り、通常の鉄筋コンクリートならば破壊するような大きな変形が生じても荷重を支持し続けることができます。

本工法に用いられるポリウレアは、耐酸・耐アルカリ性や耐光性(紫外線)に優れ、毒性もないため、従来から、構造物の防水や防食に使用されていました。一方、ポリウレアには、200%程度まで引き伸ばしても破断しないという特性があり、当社では東日本大震災の発生以前からコンクリート構造物の補強工法への適用を検討してきました。

実際、当社の調査では、大震災で津波被害を受けた養殖場において、ポリウレアで防水措置を施した水槽が、軽トラックや岩塊に激突されたにもかかわらず、奇跡的に形状をとどめていた事例を確認しています。


衝撃的な荷重に対する優れた補強効果を確認

U型側溝(長さ600mm、幅325mm、厚さ50mm)にポリウレアを被覆した試験体と被覆しない試験体の2種類を使用し、それぞれ衝撃耐久性確認試験(衝撃荷重:20Kg×1m)を行いました。

被覆しない試験体では、1回目の試験後にひび割れが発生、3回目で完全に破壊されましたが、被覆した試験体は、高さを変更(h=1.5m)して行われた20回目の試験後でも破壊されることはなく、津波や地震等の衝撃的な荷重に対する優れた補強効果が確認できました。

■衝撃耐久性確認試験結果

被覆なし

1回目(落下高さ1m):ひび割れが発生


2回目(落下高さ1m):大きく傾斜


3回目(落下高さ1m):完全に破壊

被覆あり

1回目(落下高さ1m)


10回目 (落下高さ1m)


20回目(落下高さ1.5m):形状を維持

■破壊状況の確認(被覆あり)

落下試験後、ハンマーによる打撃を行い、破壊状況の確認を行いました。その結果、コンクリートは部分的に圧砕しましたが、U型側溝全体の形状は保持されました。


ハンマーによる打撃


コンクリートは部分的に圧砕したが、形状は保持


破壊には至らない粘り強さ

鉄筋コンクリート(長さ1,200mm、幅100mm、厚さ120mm)にポリウレアを被覆した試験体と被覆しない試験体の2種類を使用し、それぞれ載荷試験(3トン)を行いました。

いずれの試験体も、中央部に5mm程度のたわみが生じた時点でコンクリートにひび割れが発生。被覆しない試験体では、たわみ量が40mmを超えた時点で局所的にひび割れが大きくなり破壊されました。しかし、被覆した試験体では、たわみ量が80mm近く(試験装置の限界)になってもひび割れが大きくなることはなく、変形はするものの形状および耐荷力を維持します。

■載荷試験結果


被覆なし:大きなひび割れが局所的に発生。試験体は破壊され、耐荷力を喪失


被覆あり(ポリウレア2mm、6面/試験後側面除去):小さなひび割れが分散して発生。試験体は変形するものの、形状および耐荷力を維持


「被覆あり」と「被覆なし」の比較