2014.08.28

テクニカルニュース

防災・減災

免・制震技術で立体自動倉庫の荷崩れを防止

9月1日は防災の日です。2013年末に成立した国土強靱化基本法により、大規模な自然災害に対する国を挙げた防災・減災への取り組みがすでに始まっています。なかでも、巨大地震に対する建物の地震対策は、新築、既存を問わず、今後加速していくものと思われます。

東日本大震災では、継続時間の長い揺れにより、震源から半径300kmにわたる広い地域において立体自動倉庫※1内のラック架台で荷崩れ被害が発生しました。なかには、建物自体の被害がなかったにもかかわらず、自動倉庫内の一部の荷崩れによって搬送機器が使えなくなり、自動倉庫の業務再開に数ヶ月を要した事例も見受けられました。首都直下地震や南海トラフを震源とする巨大地震の発生が危惧されるなか、物流の核をなす立体自動倉庫の荷崩れ対策は急務と言えます。

今回の特集では、地震による立体自動倉庫の荷崩れを防止する「ラックベーススライダー※2」と「ラックトップダンパー」についてご紹介します。ラックベーススライダーはラック架台の下に設置する新築施設向けの免震装置で、ラックトップダンパーはラックの最上段に設置する主に既存施設向けの制震装置です。いずれも20段(高さ30m程度)の自動倉庫まで対応可能であり、高機能かつローコストで地震による荷崩れを防止、もしくは低減することができます。

ラック架台を集中配備し、自動的に荷物の入・出庫を行う施設で、日本全国に10,000棟超建設されている。倉庫の荷物はパレットに載っただけの状態でラックに収められていることが多く、保管量も変化する

日本ピラー工業(株)との共同開発

新築施設向け免震装置「ラックベーススライダー」

既存施設向け制震装置「ラックトップダンパー」


新築施設向け免震装置「ラックベーススライダー」

ラックベーススライダーは、ラック架台のコンクリート基礎と建物の床の間に設置する新開発の免震装置です。この装置は、地震の揺れが伝わらないようにラック架台がレール上をスライドする仕組みになっていて、2本のレール状部材を直交するように組み合わせることで、あらゆる水平方向の揺れに対し免震効果を発揮します。

また、部材表面に施した特殊加工と部材につけた傾斜により、揺れを収束させる減衰効果はもちろん、ラック架台を元の位置に戻す復元効果も備えています。対策に必要なコストは9~10万円/m2(建築面積あたり)で、建屋免震をはじめとする新築向けの対策技術の中では最もローコストです。


ラックベーススライダー


ラックベーススライダーの機構

■振動実験と解析により、減衰効果と復元効果を確認

当社技術研究所における振動実験により、大地震に対しても免震効果が高いこと、地震後の残留変位が小さいことを確認しています。また、荷物の保管状況により荷重が変化した場合でも、安定して免震効果を発揮できることが実証されました。

東北地方太平洋沖地震の観測波形を入力した振動実験(偏心用の重りを追加した場合):下部の4箇所にラックベーススライダーを設置


標準三波(エルセントロ・タフト・八戸で観測された地震波)の地震波を大地震レベルで入力した解析では、揺れの加速度を最大70%低減できることを確認


既存施設向け制震装置「ラックトップダンパー」

ラックトップダンパーは、ラック架台の最上段に設置した錘(おもり)の動きで地震の揺れを打ち消すTMD(チューンド・マス・ダンパー)タイプの制震装置で、主に既存施設を対象としています。X軸、Y軸の2方向に錘が独立して動くことで、360°の揺れに対して高い制震効果を発揮します。

本装置の設置は、通常の荷物同様、立体自動倉庫の搬送システムを使ってラック架台の所定の棚まで運び、ボルトで固定するだけです。そのため、架台の改造や建屋の改修、既設荷物の移動等が不要であり、営業しながらの設置も可能です。対策に必要なコストは高さ20m、4,000パレット(荷物重量700kg)対応の試算で1パレットあたり約1.5万円(設置台数45台前後)です。すでに既存の立体自動倉庫へ適用済みです。


ラックトップダンパー

■振動実験と解析により制震効果を確認

当社技術研究所における振動実験により、制震効果が高いことを確認しています。

実物大(20m級)の立体自動倉庫の最上部3パレットを抜き出した試験体(下部に周期調整装置)を用いて、南海トラフの模擬地震動波形を入力した振動実験


東北地方太平洋沖地震時の関東地方での観測波(中地震)を用いた解析では、ラック最上部の揺れを最大45%低減させることを確認