2020.03.25

テクニカルニュース

施設価値向上

エンジニアリング事業におけるAIソリューションの開発・導入

当社は、2017年より工場や物流施設におけるAI導入プロジェクトを通して、安心・安全・生産性の向上、省人化に向けた取り組みを行っています。2019年にはAIプラットフォーム事業者であるEdgeMatrix社に出資を行い、工場の製品検査、物流施設の火災検知や構内の車両誘導システムなどの分野においてAIソリューションの導入実績を重ねてきました。

AIを施設の運用改善に活用したいというニーズは日増しに高まっています。一方で、AIの活用には膨大な学習用データが必要で、多くの場合、それらには機密情報あるいは個人情報が含まれています。今回の一連のプロジェクトでは「エッジAI」を採用することで、取扱いに注意を要するセンシティブ情報の安全性を確保しました。エッジAI を使えば、データ生成現場(エッジ)でAI処理が可能となり、センシティブ情報をクラウドにあげることなく、安全・リアルタイムに活用することができます。

当社は、建物インフラとしてのIoTプラットフォームを作り、エッジAIを用いて現地のIoT機器から得る情報を処理させ、個別のニーズに応じた施設管理のソリューションを提供することで、省人化による生産原価の低減、建物の高付加価値化を目指します。

AIが学習した画像と比較することで、高速で流れる製品の良・不良を判断する(写真提供:六甲バター株式会社)
AIが学習した画像と比較することで、高速で流れる製品の良・不良を判断する(写真提供:六甲バター株式会社)

AIソリューションの概要

近年、通信技術やデバイス実装技術の発展により、身の回りのさまざまなものがパソコンを介さずに繋がり合うことができるIoTが普及し、IoT機器から生まれるビッグデータの活用は以前にも増して注目されています。

当社では、施設内IoTとAIの連携に着目。例えば、室内に一点だけ壁際の隅に設置されたセンサに室内の温熱環境を代表させてシステム制御していた従来の空調方式では、必ずしも室内全体の環境が最適化されているとは言えませんでした。ここに、有線の電源やネットワークが不要なIoTセンサを用いることで、従来得られなかった利用者近傍の環境が計測できるようになり、詳細な室内温熱環境と複数の空調機動作の因果関係をAIに学習させることで、従来よりも省エネかつきめ細やかな快適環境の実現が可能となります。

このようにIoTによって収集・蓄積される施設内のさまざまなデータを、施設AI・IoTプラットフォームで一元管理するとともに、センシティブ情報を扱うものや、リアルタイム性を求めるソリューションにはエッジAIを活用することで、施設の特徴に合わせた複合的なサービスを生み出すことができます。

複合的なサービルを提供するための施設AI・IoTプラットフォーム
複合的なサービルを提供するための施設AI・IoTプラットフォーム

製品検品システム

食品工場など高速で製品が流れるラインでの検品作業では、多くの検査員を配した目視検査が行われている事例が多くあります。そのような現場では、検査基準が明確でないことから従来型の画像検査システムでは対応が難しく、結果として目視検査を実施せざるを得ないケースもあります。目視検査が抱える課題は、大きく分けて4つあります。

  • (1)検査員としての経験値が求められるため、人材不足
  • (2)検査員によって、また、その体調によって生じる検査品質のバラツキ
  • (3)配置できる人数の制約による検査モレが発生する可能性
  • (4)動体視力に依存する検査速度の限界

これらの課題を解決することを目的に、AIを活用したカメラ画像分析による検品システム構築しました。また、検品作業にはリアルタイム性を求められるため、エッジAIを採用しました。

まず、製品の包装状態を学習するために、流れてくる製品の向き・姿勢を複数角度から撮影しました。同時に、正解データ、不正解データについても、想定されるバリエーションを徹底的に洗い出し、アノテーション(それぞれの情報への紐付け)を実施しました。このように準備した学習データを、カメラ画像を分析する「IVA(Intelligent Video Analytics)」に特化したエッジAIに実装することで、レーンに流れてくる製品の画像から、適切に不良品を検出するシステムとして実用化しました。

カメラを複数台設置することにより、検査員では見つける事が難しかった面・角度も網羅的に検査でき、適切な学習データさえ揃っていれば十分な検査品質が得られる上、目視検査のようなバラツキが生じることもありません。つまり、検品作業のモレ・ミスをなくし、生産性を高める事が可能なソリューションと言えます。

AIによる製品検品システム。底面以外の5面を検査することができる(写真提供:六甲バター株式会社)
AIによる製品検品システム。底面以外の5面を検査することができる(写真提供:六甲バター株式会社)

早期火災検知システム

昨今、物流倉庫における火災が問題になっています。通常、火災は報知器が設置されている天井面に、炎や煙が一定の強さ(あるいは濃度)で到達していることを検知することで警報が発せられます。しかし、物流倉庫など天井が高い施設では、炎や煙が天井面に達し、火災報知器が動作するころには、すでに初期消火の段階を超えている場合が多く、スプリンクラーが作動する前に延焼が進み、大規模火災に発展することがあります。そこで、火災をできるだけ早く発見し、消火及び避難行動を実施することが重要であるという観点から、天井の高い施設における早期火災検知システムを構築しました。

従来のガスセンサーを複数組み合わせ、データをAIで学習することにより、火災判定の高速化および誤作動の非常に少ない検知システムを開発。さらに、測域センサ(レーザースキャナ)を用いて、空間内に浮遊する微粒子のセンサからの距離を計測することにより、センサで得られる膨大なデータの中からチリやホコリなどのノイズ情報を排除した上で煙の特徴を抽出し、それらを学習データとして、火災早期における濃度の薄い煙を見つけ出す煙検出システムを開発しました。

このように従来のガスセンサ、煙感知器、炎センサに加えてレーザスキャナを組み合わせ、AIを活用したセンサーシステムにより、空間内の様々な環境に対応できる精度の高い早期火災検知システムを構築することができました。

AIに「煙」を学習・認識させ、その他のセンサと連動させることで火災判定を行う
AIに「煙」を学習・認識させ、その他のセンサと連動させることで火災判定を行う

車両管理・誘導システム

近年、配送ドライバーが減少・高齢化している一方で、ネットショッピング(EC)の需要拡大によって、宅配便を始めとする物流量も急増しています。さらに、再配達や配送スピードの向上といったサービスへの対応も迫られており、いまやEC市場にとって、物流倉庫の逼迫解消、トラックのスムーズで効率的な配車が重要な課題になっています。

まず、倉庫内に進入したトラックの車種をエッジAIによるカメラ画像解析で捉えます。それをプラットフォーム上で管理している積荷などの車両情報や駐車すべきバース位置情報と照らし合わせ、ポータルサイトのマップ上にリアルタイム表示します。エッジAIでは車番認識のほか、車両・属性認識、車両の位置検出、車両の動作解析から異常動作の検出も行っています。

随時変化する情報を分析し、トラックのステータスと物流倉庫の状況を整合させ、ステークホルダー間で共有することで、倉庫内の混雑防止、トラックの待ち時間の軽減、再配達リスクの軽減に繋げることができます。トラックの配送状況を物流業界全体として情報共有することができれば、共同配送への取り組みもより一層容易になり、配送ドライバーの不足にも対応することが可能になると考えています。

AIによってトラックの行動を予測し、ポータルサイトでドライバーと情報を共有する
AIによってトラックの行動を予測し、ポータルサイトでドライバーと情報を共有する

今後の展開

総合建設会社で唯一、情報通信技術(ICT)専門事業部署を擁する当社は、施設の設計段階から各種システムとの密な連携を図ることで、制御する設備機器からAIの開発まで一貫して関わることができ、室内環境だけでなくそこにいる人の情報を組み合わせた新しいサービスを提供することができます。

今後、施設単体だけでなく、施設群さらには街全体をネットワークで結び、IoTプラットフォームとエッジAIを活用して快適・便利な施設・街を支える環境作りに繋げていくことを目指します。