2021.08.18

テクニカルニュース

防災・減災

建物から外構までを液状化被害から守る シミズの液状化対策技術

液状化とは、地下水位の高い砂地盤が地震などで繰り返し揺すられて、液体状になる現象です。液状化は建物やライフラインに被害を及ぼし、私たちの日常生活に甚大な影響をもたらします。砂が緩く堆積している埋立地や河川の近くなど、液状化が発生しやすい場所を特定し、適切な対策をあらかじめ施すことで、液状化による被害を防ぐ・低減することができます。

当社では、液状化現象を正確にシミュレーションする技術と様々な対策技術をラインナップし、液状化発生の可能性がある敷地での建設計画をトータルでサポートします。

シミズの液状化ソリューション(左上:HiPER、右上:シミズ改良地盤評価法、左下・右下:グラベルサポート)
シミズの液状化ソリューション(左上:HiPER、右上:シミズ改良地盤評価法、左下・右下:グラベルサポート)

液状化とは

砂でできた地盤は、砂粒が互いに支え合うことでバランスを保っており、地下水位が高い場合は粒の間は水で満たされています。このような砂地盤が地震などで繰り返し揺すられるとバランスが崩れて互いの支えが外れ、砂粒が水に浮いた状態=液体状になります。この現象を液状化と呼んでいます。

液体状の砂の上では、重い建物や橋梁は沈下し、軽いマンホールや地中の配管などは浮き上がってしまいます。また、場所によっては砂混じりの水が地表に吹き出す噴砂と呼ばれる現象が生じます。揺れがおさまると砂が沈み、これまでよりも低い位置で新たなバランスを作ることで、地盤沈下が生じます。

液状化のメカニズム
液状化のメカニズム

地震と対で取り上げられることの多い液状化現象ですが、いつでもどこでも発生する訳ではありません。揺れによって砂のバランスが崩れることと、砂の間に水があることが必要ですので、以下の4つの条件が揃ったときに、液状化が発生することが知られています。

  • (1)粒径の揃った砂の地盤である。
  • (2)砂が緩く堆積している。
  • (3)砂粒のまわりが地下水で満たされている。
  • (4)砂粒のかみ合わせが外れるような強い揺れを受ける。

一般的に、川や海が埋め立てられて市街化された場所は、液状化が発生しやすいと言われています。

大地震後の液状化の様子
大地震後の液状化の様子

液状化被害を防ぐには、その現象を正確に理解することと、適切な対策技術が必要になります。当社が開発した液状化解析技術「HiPER」、液状化を防止する設計手法である「シミズ改良地盤評価法」、液状化被害を低減する技術「グラベルサポート」をご紹介します。

液状化現象を3次元解析でシミュレーション:HiPER

HiPERは、砂粒と地下水の挙動を忠実にモデル化することにより、液状化現象を正確に再現することができるシミュレーション技術です。地盤中に発生する液状化の領域、程度、発生後の被害状況や、対策工法の効果検証までを一貫して3次元シミュレーションすることで、広域で不整形な地盤でも適切かつ高度に評価することが可能です。

HiPERは、地震などにより繰り返し揺すられる砂粒の挙動を表現した「おわんモデル」を採用していることが最大の特徴で、その原型は1991年に開発されました。それ以降も、2009年には地震時の最大せん断ひずみをもとに地盤の残留変形を求めるポスト液状化理論を採用、2014年には広域の地震応答解析が行えるように解析能力を拡張するなど、常に解析機能の充実・向上を図っています。

HiPERは、これまでに20件以上の実案件の検討に採用されており、現在も、液状化にともなう地盤沈下や地盤流動の予測、液状化対策工法の効果検証などに用いられています。

HiPERの解析事例
(左図:液状化対策がない場合は建物の傾斜が大きく、建物直下も液状化する。右図:杭と締固めによる対策がある場合は建物の傾斜が極めて小さく、建物直下も液状化しない。)

大型構造物を対象とした液状化防止設計手法:シミズ改良地盤評価法

液状化対策の一つとして、砂地盤内にセメント系の改良体を格子状に構築して、地震時の地盤の揺れを低減する工法が知られています。当社は、このような地盤改良工法における改良体を手軽に設計できる「シミズ改良地盤評価法」を開発しました。この評価法を用いることで、対象地の地盤やそこで想定される地震動、さらには経済性を考慮した上で、改良体の形状や固さなどの仕様を半日程度で最適化できます。

通常、液状化が懸念される砂地盤に格子状や板状の改良体を設ける場合、対象地盤と改良体の3次元モデルで解析する必要があり、その検討には2~3週間を要します。シミズ改良地盤評価法では、これまでの知見に基づいた地盤評価式が埋め込まれているエクセルシートに、地震力や地盤データを入力するだけの簡単な作業で、改良率や改良体の剛性を設計できるようにしました。

この「シミズ改良地盤評価法」に基づく格子状地盤改良工法は、現在15件以上の実案件に適用されています。

  • 格子状地盤改良のイメージ
    格子状地盤改良のイメージ
  • 格子状地盤改良工法を適用した事例
    格子状地盤改良工法を適用した事例

小規模構造物を対象とした液状化被害低減技術:グラベルサポート

2017年日本建築学会賞(技術)受賞

グラベルサポートは、地盤表層のごく一部に礫(比較的粒径の大きな砕石、れき、グラベル)を用いて簡易改良するだけで、小規模構造物の液状化被害を低減できる対策技術です。HiPERや遠心模型実験により、その対策効果を検証しています。

これまで建物外部に付帯設置される設備基礎などの小規模構造物は、コスト等の観点から十分な液状化対策が困難でした。一方で、地震時にこれらの構造物に被害が生じることで本体建物に被害がなくても、施設としての機能が損なわれるといった事例が見られました。このことから、事業継続性の確保には、建築物や土木構造物といった大型構造物もちろんのこと、設備基礎・外構といった付帯する小規模構造物も含めた敷地全体での液状化対策が重要であると考えられます。

グラベルサポートの主な適用対象は、建物本体の周囲に設置する小型タンク、配管架台、小型倉庫などで、接地圧がおおむね50kN/m2以下の小規模構造物になります。また、駐車場や構内道路などにも効果が期待でき、これらは規模に関係なく適用できます。

施工方法は、新築では基礎直下に薄い礫層を、改修の場合は基礎周囲に所定の深さの礫層を設けるだけです。構造物等の周囲に透水性の高い礫層を設けることによって、地震の揺れで地表に現れる地下水を速やかに排水することができ、液状化による噴砂を抑制して、構造物等の沈下を防止します。

グラベルサポートは、現在50件以上の実案件に適用されています。

グラベルサポートの遠心実験動画
(左)グラベルサポートあり(右)グラベルサポートなし(加振終了後、次第に傾きが大きくなる)
小規模構造物への適用例
小規模構造物への適用例

今後の展開

当社は、液状化現象を3次元で正確に評価できるHiPERをベースに、新築の大型構造物の安全を確保するシミズ改良地盤評価法や、付帯する小規模構造物の液状化被害を低減させるグラベルサポートなど、様々な液状化対策技術を用意しています。

私たちの日常生活に甚大な影響を与える液状化に対して、これらの技術をパッケージとしてお客様に提供することにより、安全かつレジリエントなまちづくりに貢献していきます。