2023.01.11

テクニカルニュース

防災・減災

ビル全体を制振装置化し地震時の揺れを半減するシステム「BILMUS」

当社は、地震や強風による揺れに対して絶大な制振効果を発揮する制振システム「BILMUS(ビルマス)※1」を開発しました。本システムは、超高層ビルの上・下層階が揺れを打ち消しあうことで、地震時の建物内部の揺れを従来と比べて半分以下に抑えることができます。

BILMUSは、超高層ビルの上層階と下層階を構造的に独立させ、免震建築に用いる積層ゴムとオイルダンパーで連結することで、地震時に互いの揺れを打ち消す方向に揺らします。これにより、ビル自体が制振装置の役割を果たすため、従来と比べ制振装置の台数を大幅に削減でき、意匠設計の自由度が飛躍的に高くなります。また、本システムは建物の構造・用途を問わず適用することが可能です。

BILMUSの概念図
BILMUSの概念図
上層階と下層階がお互いの揺れを打ち消しあうように設計することで、揺れを半減させる

BILMUSは2025年竣工予定の「芝浦プロジェクト※2」S棟に初めて採用されます。下層階のオフィス部で優れた制振効果を確保したうえで、上層階のホテル部では地震や強風に見舞われた場合でも、居室内の家具、什器の転倒や内外装の損傷が低減し、ラグジュアリークラスのホテルに相応しい居住性を確保します。

  • 「芝浦プロジェクト」の完成予想パース。左の超高層ビルがS棟、右はN棟(未着工)
    「芝浦プロジェクト」の完成予想パース
    左の超高層ビルがS棟、右はN棟(未着工)
  • S棟の構造パース
    S棟の構造パース

BILMUS(ビルマス)
Building Mass(建物質量)、Celsus(高性能)、Robust(頑強性)を組み合わせた造語

芝浦プロジェクト
野村不動産(株)と東日本旅客鉄道(株)が進める大規模複合開発。S棟は、地上43階、高さ約235mの超高層で、用途・構造は1階~34階が鉄骨造のオフィス・商業施設、35階以上が鉄骨造(コアウォールは鉄筋コンクリート造)のホテル

背景

近年、建物が大型化、複雑化する中で、建物に伝わる揺れを吸収する多様な制振装置が開発されてきました。制振には、建物の適所にオイルダンパーなどを付けて揺れを吸収させる方法と、建物頭頂部に載せたマスダンパーなどの錘を建物と反対方向に動かして揺れを打ち消す方法があり、超高層建物などでは両方取り入れることもあります。

オイルダンパーなどで超高層ビルを制振する場合、多数の装置が必要となり、建築計画の自由度にも影響を与えます。また、マスダンパーは超高層ビルで揺れ幅が最も大きい頭頂部の動きを抑制する合理的な方法ですが、錘の重量がビルへの負荷にもなるため載せられる錘の重量=制振効果に限界があります。

BILMUSの概要

そこで、ビル本体を錘として活用する、より効率的な制振システムとして開発したのがBILMUSです。

一般的な超高層ビルとBILMUSの制振方法の違い
一般的な超高層ビルとBILMUSの制振方法の違い

上層階の重量がビル全体の10~50%になる位置に連結部を設けます。上層階を錘として利用することで、一般的なマスダンパーと比べて10~50倍の重量比となるため、より大きな制振効果を発揮し、中小地震から大地震、暴風に至るさまざまな外力に対応しながら建物全体の揺れを抑えます。加えて、上層階の居住性に影響を及ぼす応答加速度を大幅に低減することが可能です。

応答加速度:地震が起きた時の構造物の揺れ(応答)の強さを加速度で表したもの

動画:南海トラフを想定した長周期地震動(KA1)を加振波とした場合の、従来制振(上)とBILMUS(下)の揺れ方の違い(1:01)

連結部は、上層階と下層階が揺れを打ち消しあうような周期で揺れるように、積層ゴムとオイルダンパーの量を調整して構成します。

メリット

1.上層階の揺れが最大で従来の半分以下

BILMUSを採用した建物では、地震時の上層階の揺れが最大で従来の半分以下になります。そのため、居室内の家具、什器の転倒や内外装の損傷も低減され、居住性能だけでなく、安全性も向上します。

2.フロアの有効面積拡大や設計自由度の向上

ビル自体を制振装置化することで、これまでフロアごとに配置していた制振ダンパーの台数が大幅に削減できるため、今まで制振ダンパーを設置していた場所を有効利用し、レジリエンスや居住性、設計の自由度などを向上させつつ、建物全体のコストを従来と同程度に抑える経済性を実現できます。

BILMUSを実現する開発技術

BILMUSの連結部は、積層ゴムやオイルダンパーで構成された柔らかい層となっているため、年に数回発生するような強風に対しても変形します。地上から最上階まで連結部を貫通して昇降するエレベータは、連結部の変形を検知すると安全装置が働き、運行を停止してしまうため、建物利用者の利便性を損なわないよう、強風時にはエレベータを停止させないような工夫をする必要がありました。

耐風ロック機構「ウィンドロック」

地震時には作用せず、強風時においてのみ連結部の変形を固定できる耐風ロック装置「ウィンドロック」を新たに開発しました。油圧ジャッキを用いたシステムからなり、建物屋上に取り付けられた風速計や、連結部の変位計が一定の数値以上となる強風を感知すると、連結部に設けられた油圧ジャッキが自動的に伸長し、摩擦板を押し付けることで水平方向の変形を固定します。

連結部を貫通するエレベータの稼働を維持する一方、強風時においても地震発生時にはロックを瞬時に解除し連結部を機能させます。

強風による連結部の水平方向への変形を防止し、連結部を貫通するエレベータの稼働を維持するための耐風ロック機構「ウィンドロック」
強風による連結部の水平方向への変形を防止し、連結部を貫通するエレベータの稼働を維持するための耐風ロック機構「ウィンドロック」

安全装置「eクッション」

設計で用いたレベル3(ex.2500年に一度起こると考えられる地震)を超えるような想定外の大地震により、連結部に限界を超える水平変形が生じようとした場合の過大変形を防止するために開発したのが、安全装置「eクッション」です。eクッションは、物理的なストッパーとして上層階の構造体から伸び出た立下り柱(H型鋼)に設置します。揺れによる衝突の衝撃を和らげつつ、連結部の変形を抑制します。

想定外の大地震に対して過大な変形を防ぐ「eクッション」
想定外の大地震に対して過大な変形を防ぐ「eクッション」

今後の展開

今後、レジリエンスが高い超高層ビルを経済的に提供するとともに、超高層ビル以外の施設用途にも対応した汎用性の高いシステムとして確立していきたいと考えています。