2018.09.10

開発者ストーリー

建設現場に化学変化をもたらす境界領域の開拓者

杭工事の品質管理に対する社会的なニーズが高まり、検査の強化・徹底が叫ばれる中、清水建設はこれまでとは全く違うアプローチの品質評価方法を開発しました。

杭工事風景

時間と手間がかかっていた杭の検査


支持層と呼ばれる固い地盤まで掘り進め、杭の先端を固定することで安定した基礎となる。
※ソイルセメント…セメントと土、水を混合して固めたもの

マンションなどの構造物を建てるにはまず、支持層と呼ばれる地中深くの硬い地層まで杭を打ち込み、地上に建設する構造物を支えるための杭工事を行います。

杭工事の一つである既製杭工事は、杭を打ち込むための穴を支持層に届くまで掘り、そこに事前に工場で製作した杭(既製杭)を挿入。杭の先端と支持層をセメントで固めるという手順で行われます。

構造物を満足に支えることができるかどうかは、地中に打ち込んだ既製杭が「支持層に届いているか」「先端と支持層が十分に固定されているか」にかかっています。

この2点について、これまでは次の方法で判定していました。

まず「支持層に届いているか」という点については、掘削機が受ける抵抗の変化によって判定を行っています。柔らかい地層と硬い地層では、掘り進める際に受ける抵抗が違うため、支持層に達したことがわかるという仕組みです。

次に「先端と支持層が十分に固定されているか」については、支持層の土とセメントが混ざったソイルセメントのサンプルを取り出し、十分に固まる3日後を待って、専門の検査会社が行う圧縮強度試験によって強度を判定しています。

つまり、強度の合否がでるまでに3日間が必要となり、この間は実質作業が進められません。検査の強化・徹底が必要なのは言うまでもありませんが、現場作業の効率化という面では隠れたネックとなっていたのです。

強度判定に化学の力でイノベーションを起こす

この課題に対し化学的なアプローチで解決に挑んだのが、技術研究所でセメント化学の知見を基に、コンクリートの材料開発を手掛けていた依田 侑也です。彼は清水建設では珍しい材料工学科の出身。学生時代からさまざまな分析手法を駆使し、特殊なセメントの研究を手がけてきた知見を買われ、プロジェクトに参画することになりました。

そんな依田が新たに開発したのがセメントと水の比率を化学的に短時間で分析する手法。

Cement/Water ratio(セメント水比), Quality Inspection of Cemented-soilの略称である「CW-QUIC」は、その名の通り、セメントと水の混合比が強度と相関関係が高いことを利用した検査方法です。

CW-QUICを用いた検査を行う依田

検査では、必要な強度を発現するためのセメントと水の比率を予め算定し、採取した現場のサンプルがその比率を満たしているかを調べます。

セメントはアルカリ性のため、酸によって中和することが可能。その特性を利用し、現場で採取したセメントと支持層の土が混ざったサンプルに、酸と、アルカリ性に反応して赤く変色する指示薬を混ぜた混合液を加え、よく振って30分後に色を確認。アルカリ性であることを示す赤色になれば、強度発現に必要十分なセメントが含まれていると判断する仕組みです。
技術の詳細はこちらをご覧ください

検査に必要なサンプルはわずか10cc程度。中和するための酸は作業員の手にかかっても影響の小さな物を使用している。強度確保に十分なセメント量が含まれていれば、アルカリ性であることを示す赤色になる

CW-QUICのメリットはなんと言っても検証スピードの早さにあります。3日間かかっていた検証時間がわずか1時間程度になるため、工期の短縮やそれに伴うコスト削減が期待できます。

また、万が一、根固め部の強度不足が判明した場合も、施工方法の見直しをすぐに行えるため、工期遅延を最小限に留めることが可能です。

検査にかかる費用もこれまでの圧縮検査と変わらず、高度な技量や大掛かりな機材も不要。誰でも検査できるうえに、時間と費用の両方で無駄なコスト増加を防げるCW-QUICであれば、人手不足が叫ばれる現場の効率化と、基礎工事の信頼性向上を両立できます。

より大きな安心をすべての現場に

現在は圧縮検査にかける前のスクリーニング試験として活用されているCW-QUIC。すでに70以上の現場に用いられ、品質の確保に貢献しています。約97%もの精度で判定できるため、実績を積み重ねていけば、ゆくゆくはCW-QUICをメインの検査方法として位置づけられるかもしれません。

また、これまでは検査用に別途、杭穴を掘って検査をしており、構造物を支えるすべての杭を検査しているわけではありませんでした。しかし、手軽かつ少量のサンプルで検査できるCW-QUICであれば、全杭検査も実現可能です。今後は「基礎工事の信頼性向上につながれば」と検査のノウハウを身に着けた診断士を養成するとともに、2年後を目処に他社への技術供与を目指しています。

次のターゲットは「新たな境界領域」

「複雑な反応をして、未だに物性発現のメカニズムに不明な点があるセメントは本当に面白い」。研究開始から実質2年あまりでCW-QUICの実用化にこぎつけた依田はこう語ります。

そんな彼が着目しているのは、新たな境界領域。

CW-QUICはセメントと土の境界領域に着目した新技術ですが、セメントと骨材の境界領域を考えれば、これまでにない機能や価値をコンクリートに加えることができる可能性があります。

例えば、依田が開発メンバーとして携わったアート型枠は、 コンクリートと型枠の境界領域に着目した技術であり、コンクリートに「美しさ」という新たな価値を加えました。また、セメントと内外装材の境界領域や、設備機器との境界領域はまだまだ検討の余地があり、 新たなイノベーションの可能性があると考えています。

清水建設の境界領域の開拓者が建設現場に起こす新たな化学変化に期待です。