大きな翼、再び ― 甦った構法をさらに進化させた男たち

福岡空港の新滑走路増設計画の一環として、2018年1月に新設された貨物施設。そこは建物の中なのに屋根を支える柱がなく、視線をさえぎるものもない150m×50mもの広大な空間です。高窓からは陽の光がたっぷりと入り、風も気持ちよく抜けていく、そんな価値ある大空間を設計したのは清水建設の技術者たち。

30年前に開発され、一時は技術の継承が途切れかけた独自の構法「スーパーウィング」を復活させただけでなく、さらに進化させた「ダブルスーパーウィング」構法として競争力を高め、見事に入札コンペを勝ち抜いての成果です。

ダブルスーパーウィング構法の開発に携わった技術者たち。その視線は、今回の成果に飽き足らず、さらにもう一歩先を見据えている

製鉄大手の呼びかけに応え、スーパーウィング誕生


吉井 正行

スーパーウィングは、無柱大空間を構築するために清水建設が開発した鉄骨トラス梁構法です。その歴史は古く、1986年に開発されたものです。開発チームの一人で、現在は東京支店 施工図センターで主査を務める吉井 正行は開発の経緯を次のように振り返ります。

「大手製鉄メーカーから大手ゼネコン5社に対して技術コンペの申し入れがあったのです。テーマは『鋼材を用い、無柱で100メートルの大空間を実現する新たな構法』。これに対する当社の提案がスーパーウィングでした」(吉井)

スーパーウィングの原理を簡単に解説すると、下図の(1)〜(4)のようになります。

  • (1)板に乗せたコンニャクの両端の下部を押すと、
  • (2)コンニャクは上に反り上がります
  • (3)このとき、両端の下部を押す力としてピアノ線(PC鋼線)を挿入して引っ張り
  • (4)張力のかかったピアノ線を両端に固定することで、下部に押す力が働き、上に反り上がります

この性質を利用し、鉄骨トラス下弦材にPC鋼線を挿入し、下部を圧縮して鉄骨トラスを上に反り上げようとするのがスーパーウィングの原理です。

スーパーウィングの原理

通常のトラス梁は、スパンが大きくなるほど自重によるたわみが大きくなります。これに対応するためにはトラスの高さを大きくしたり、部材も大きくする必要があります。その点、スーパーウィングはトラスとPC鋼線を組み合わせることで、梁の高さや部材を小さくできるため鋼材を約10%節約するとともに、工期も約10%短縮できるなど経済的なメリットも生んでいました。


スーパーウィング構法の開発メンバーの集合写真。前列左端で微笑んでいるのが吉井

「コンペでは、スパン長や新規性、施工性、さらにはメンテナンス性などで当社提案が高い評価を獲得し、スーパーウィングが開発されることになりました。1985年4月に入社した私は研修を終えた1986年3月から、大手製鉄メーカーとの共同開発に携わることになりました」(吉井)

開発開始から約1年8ヶ月後にはスパン100mの実大実験を終え、開発は完了します。新たな構法の開発としては異例のスピードで、これはスーパーウィングが既存の技術を効果的に組み合わせた構法だったからこそ実現できたものでした。

スーパーウィング構法が最初に採用されたのは、メーカーの工場建設で、60m×175mの無柱空間です。吉井も構造設計の担当スタッフとして参加しています。このときの印象に残るエピソードとして、吉井は大臣認定取得の苦労を語ります。

「スーパーウィングは既存技術の組み合わせなので、通常の確認申請で建築許可が取得できると私たちは考えていました。ところが建設省(現在の国土交通省)から鉄骨とPC鋼線の組み合わせは建築基準法に抵触しているため建設大臣認定が必要との指摘を受けてしまったのです。そこで認定取得に必要な資料をわずか3ヶ月ほどで準備することになりました。大勢で図面を取り囲んで修正したり、検討書を作成したりと、徹夜も厭わずに働いたものです。若かったですね(笑)」(吉井)

このように開発スタッフの一人として最初期のスーパーウィングを支えてきた吉井は、工場、体育館、物流センターでスーパーウィングの設計に携わった後、異動でスーパーウィングから離れることになります。

進化・発展するスーパーウィング


辰己 佳裕

吉井の後を継ぐように、スーパーウィングを担当するようになったのは辰己 佳裕。現在は設計本部 構造設計部1部 設計長を務める大ベテランです。

「私は1990年入社。入社後4年目のときに関西国際空港での格納庫建設で構造設計を担当したのがスーパーウィングに関わった最初です。当時は部長と主任、私の3人体制で設計をしていたのですが、途中で主任が異動になってしまい、設計実務は私一人で切り盛りすることになってしまったのは、今となってはいい思い出です」と笑います。この案件を皮切りに辰己は多くのスーパーウィングの案件に関わり、実績を積み重ねてきました。また、スーパーウィングの技術は部署の中で伝承され、数多くの案件に採用されて、発展していきます。

一方向にスーパーウィングを展開する構法をタイプ1とすれば、スーパーウィングを背骨のように使い、その両サイドに鉄骨単材を展開する、キールスーパーウィングと呼ばれるタイプ2が開発され、実際の工事にも採用されました。


  • 一方向平行スーパーウィング(タイプ1)

  • キールスーパーウィング(タイプ2)

施工法についても、両サイドにレールを設置し、完成したスーパーウィングを次々に送り出すことで拡張するスライド工法、地上で完成させたスーパーウィングをリフトアップする施工方法でクレーンによる建方を不要とするリフトアップ工法など、工期短縮とコスト削減を実現する新たな手法が次々に編み出されていきます。

スライド構法:作業構台の上で構築・完成させたスーパーウィングを順次送り出していく
リフトアップ工法:地上で完成させたスーパーウィングを本来の位置までリフトアップする

このように、無柱の大空間に数多い施工実績をあげてきたスーパーウィング構法ですが、2000年の建築基準法改正により、「旧38条大臣認定」の効力がなくなり、部材として欠かせないPC鋼材がそのままでは用いることが難しい状況となりました。そのため、徐々に構法自体が採用されない状況が続くようになりました。

しかし、2008年の法改正によりPC鋼材が建築指定材料となったことで、通常の確認申請で設計できるようになり、消えかかっていたスーパーウィングに新たな炎が灯ることになるのです。

甦り、さらに進化したスーパーウィング

2015年、スーパーウィングは航空機の格納庫建設で久しぶりに採用されます。これに続いたのが、冒頭でご紹介した福岡空港貨物施設建設プロジェクトです。このとき、建設条件として挙げられていたのは、(1)無柱の大空間であること、(2)将来建屋の拡張が可能なこと、(3)短工期・低予算というもの。

「(1)と(3)に関してはスーパーウィングでお応えできることがわかっていました。問題は(2)にいかに対応するのかということでした」(辰己)

設計スタッフたちは何度も議論を重ねた末に、従来は1方向だけに展開していたスーパーウィングを直交させる方向にも採用し、XY双方向にスーパーウィングを展開する進化バージョンにチャレンジすることになりました。

ダブルスーパーウィング(タイプ3)

これがダブルスーパーウィング構法が誕生した瞬間です。しかしながら、その後の設計実務のフェーズは苦労の連続だったと辰己は話します。

「スーパーウィングのトラスが2方向に直交したときに、どこにどのようにねじれや変形が発生するのか、入念なシミュレーションを重ねました。このような架構は、解析ソフトを用いた一貫計算では対応できず、応力を算出したうえで手計算で断面算定をする必要があるなど、非常に手間がかかります。生産技術本部のサポートも受けながら施工時解析を積み重ね、それを設計にフィードバックしていくことで、一つひとつ解決していきました」(辰己)。


小川 浩平

一方で、ダブルスーパーウィングにはキールスーパーウィングから引き継いだ大きなメリットがあったと語るのは、設計本部 生産・研究施設設計部の小川 浩平。福岡空港貨物施設建設プロジェクトに最初から関わり、意匠設計を担当したスタッフです。

「キールスーパーウィングではトラス梁と鉄骨単材部の高低差を利用して高窓を設置できるため、採光と通風が確保できます。このメリットをダブルスーパーウィングは引き継いでいたのです。福岡空港のケースでは150ルクスの明るさが確保できるように設計しており、それも提案時のアピールポイントにしました。竣工後にお客様を建屋にお連れしたら、こんなに明るい荷捌き場は初めてだと、とても喜んでいただけました。意匠設計としてもいい空間が作れたと思っています」(小川)。

小川は、辰己ら、構造設計チームの奮闘を横で見ていて、30年にわたって培われてきた技術やノウハウ、それらを縦横無尽に使いこなす知識の深さに圧倒されたとも話します。

「30年の間に積み重ねられた細かな設計上のノウハウは膨大で、技術に重みと厚みがあります。今後もスーパーウィングは高い競争力を発揮するだろうと確信しています」(小川)

スーパーウィング、将来の展開は?

無柱の大空間には今後も高いニーズがあり、それに伴ってスーパーウィングが求められるシーンは増えていくはずと小川は話します。

「産業系の分野では技術革新がどんどん加速しているため、建屋はそのままで、中の設備だけを入れ替えたいという倉庫や工場は増えていくはず。そのときに無柱というのは大きな価値になります。スーパーウィングが求められるシーンは広がっていくでしょう」(小川)

「産業系以外にも、コンベンションセンター、ショッピングモール、シアター、スタジアム、アリーナなど、非常に広い分野のさまざまな施設にスーパーウィングは適応できます」と辰己も自信を見せます。

1方向に複数のスーパーウィングを展開したタイプ1、スーパーウィングを背骨のように使うタイプ2、そしてXYの2方向に展開したダブルスーパーウィングのタイプ3とバリエーションが広がり、空間のニーズに合わせた最適な構法が選択できるように進化したスーパーウィング。では、次の進化とはどのようなものになるのでしょう。

「スーパーウィングを建屋全体に適用する場合は条件の合う案件が限られますが、例えば、物流倉庫のトラックバースの庇部分を無柱空間にするのに用いるといったように、建物の一部に用いるという使い方もあると思います。また、横に2方向に広がったのですから次は縦方向、と言いたいところなのですが、現状のスーパーウィングは屋根面に追加荷重がかかるような建物への展開は厳しいものがあります、しかし、将来的にこのハードルがクリアされるようになれば、スーパーウィングの可能性は、私たちの想像を超えて広がっていくでしょう」と辰己がいえば、小川も「スーパーウィングなら、お客さまはもちろん、作る側の私たちも満足度が高い、そんな付加価値の高い空間を作れるはずです」と話します。

特別なものと一般的なものを組み合わせて最適解を見出す、清水建設がよく言う『ベストミックス』を体現した技術として、スーパーウィングはますます活躍の場を広げていくでしょう。

福岡空港貨物施設建設プロジェクトに関わったメンバーの一部(左から3人目が辰己、5人目が小川)