2019.10.07

テクニカルニュース

省エネ

余剰電力を水素に変えて長期間・安全に貯蓄「Hydro Q-BiC」

当社は、建物付帯型の水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」を開発しました。

わが国のCO2排出量のうち40%が建築関連であり、その中でも建物運用時のエネルギー消費(エアコンなどの空調設備、エレベーター、照明、機器電力)によるものが約8割を占めていることから、地球環境保全には日常的なCO2排出を削減する目線が欠かせません。

昨今では、太陽光発電等再生可能エネルギーの利用拡大を目指し、それらを十分に活用するための蓄エネ設備の導入に向けた取組みが進んでいます。当社は、10年以上にわたって培ってきた「シミズ・スマートBEMS」によるエネルギーマネジメント技術を核として、様々な蓄エネ設備との連携にチャレンジしてきました。

Hydro Q-BiCでは、新たな蓄エネ材料として水素に着目し、再生可能エネルギーの余剰電力を水素に変えて水素吸蔵合金に蓄えたのち、必要に応じて水素を取り出して発電できる仕組みとして確立しました。水素の吸蔵・放出に、実績あるシミズ・スマートBEMSを活用することで、施設の需要に応じたエネルギーの最適運用が可能になりました。

今後は自動化を進め、オペレーター不要のシステムとして完成させるとともに、水素の特性を生かして建物や街区における更なるCO2削減と災害時のエネルギー供給を実現し、環境にやさしく災害に強いレジリエントな次世代まちづくりに貢献します。

当システムは脱炭素社会の実現に向け、太陽光発電の余剰電力を最大限活用する水素エネルギー利用システムの開発として高く評価され、2018年度コージェネ大賞 技術開発部門 理事長賞を受賞しています。

国立研究開発法人産業技術総合研究所との共同開発

市街地を中心にCO2フリー水素の地産地消エリアを想定し、郊外のメガソーラーにて水素を製造、エリア街区内に輸送する

Hydro Q-BiCの概要

水素を利用する仕組み

エネルギー源の水素は、水道水を濾過して生成した純水を電気分解することで作り出します。この時の水素は湿気を含んでいるため、除湿プロセスを経て水素吸蔵合金に吸蔵させます。エネルギーとして利用するときは、こうして貯められた水素を空気中の酸素と化学反応させ、電気と熱として取り出します。

水素吸蔵合金は、吸蔵時には発熱、放出時には吸熱する特性を持っており、発電効率を一定に保つためには、合金を温めてあげる必要があります。Hydro Q-BiCは、電気分解による水素生成時、水素吸蔵時、燃料電池コージェネの発電時の排熱を回収可能とし、いずれも水素放出時における合金の加温に用いることでシステム効率を高めています。

水素エネルギー利用システム

シミズ・スマートBEMS(ビル・エネルギー・マネジメント・システム)

太陽光発電や蓄電池などの分散型電源を最適制御するマイクログリッドと、設備機器の制御により電力を調整するデマンドレスポンス機能を統合したシステムで、単純なピークカットだけでなく、時間帯別の使用可能電力の設定や、電力料金を最小化する運転を行うなど、目的に応じた柔軟な運用をすることができます。

これまでのシミズ・スマートBEMSは主に電力をマネジメントするシステムでしたが、Hydro Q-BiCにおいては熱をマネジメントし、水素の吸蔵・放出を制御するシステムへと進化しました。電気分解装置、水素吸蔵合金タンク、燃料電池コージェネなどの各装置を統合コントロールすることで、施設の電力・熱需要および太陽光発電の発電量予測に基づいた最適なエネルギー運用計画やリアルタイム需給調整を自動で行うことができます。

水素エネルギー利用システムの構成

蓄エネに水素を用いる理由

再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、その出力変動や余剰エネルギーが問題になっており、エネルギーを安定化する仕組みが必要とされています。リチウムイオン電池に代表される蓄電池をはじめとするエネルギーを蓄える技術に注目が集まっており、その1つとして技術開発が加速しているものが水素です。水素は基本的にタンクに貯蔵する形態を取るため、自然放電がなく長期貯蔵に向いています。また、水素吸蔵合金を使うと約1000分の1にまで体積を圧縮できるため、大量貯蔵が可能です。

つまり、通常よりも大規模であったり、長いスパンでの運用に適していると考えられ、例えば、太陽光発電の発電量が大きく施設のエネルギー需要の少ない春や秋に発生する余剰電力を水素で蓄えて、エネルギー需要ピークが生じがちな夏や冬に使うといった、季節を跨いだエネルギーマネジメントの可能性を検討しています。


  • 蓄電池・水素貯蔵の棲み分け

  • 水素貯蔵量の年間の変化

水素吸蔵合金で貯蔵するメリット

  • 大容量の水素をコンパクトに貯蔵できる:約1000分の1に圧縮
  • ボンベ圧力が低いため、漏れる可能性が低い
  • 自然放電がない
  • 可燃物質ではないため、管理が容易
  • 関連法規制が少ない

水素吸蔵合金は、合金内に水素を効率的に取り込む性質がある一方で、水素の吸蔵・放出を繰り返すことにより合金が微細化し、粉末状となることで着火しやすくなる特徴を持っています。

今回独自に開発した水素吸蔵合金は必要性能を確保しつつも、合金が微細化せず着火しないことに特長があります。さらに吸蔵・放出に必要とされる動作温度が20〜50℃と扱いやすい温度域であること、貯蔵・運用に関する有資格者も不要であること、レアアースが含まれていないことなど、安全性が高く運用の容易なシステムを支えるコア材料と言えます。

水素をエネルギー原料として持ち運べるようにする方法には、圧縮し液化させる方法、トルエンに反応させてメチルシクロヘキサン(MCH)へ転換させる方法、窒素ガスと反応させアンモニアを合成する方法などがあります。これらの方法に比べて水素吸蔵合金は法規制が少なく、体積やエネルギー損失の面においても大きなメリットがあります。

   
水素吸蔵合金と他の貯蔵方法との比較
低コストで安全性の高い、消防法非該当のオリジナル合金を開発

実用化に向けた取り組み

フェーズ1:システムとして完全自動運転を研究開発

2017年6月から2019年3月にかけて、国立研究開発法人産業技術総合研究所の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)内で、システムの性能を検証するとともに、シミズ・スマートBEMSによる最適な制御技術の確立を目指すため、本格的に実証運転を行いました。

実証システムは、太陽光発電装置(出力20kW)、水電解装置(5Nm3/h)、水素貯蔵装置(約40Nm3)、燃料電池(出力:3.5kW)、蓄電池(出力:10kW)からなり、延床1,000m2程度の建物利用に特化したシステム構成としました。

FREA内に建設した水素エネルギー利用システム

太陽光発電からの発電電力のみをエネルギー原資とし、システム全体の総合効率65%以上を達成しました。

移動状況の一例(曇天時)

フェーズ2:実建物実証

2019年度より郡山市総合地方卸売市場管理・関連店舗棟(延床面積:4,310m2、電力需要:100kW)に実装・運用し、課題の抽出・解決を行っています。

実証試験でのCO2削減量、維持管理費を定量評価し、事業性(コスト)を検討するのが目的です。

郡山市総合地方卸売市場管理・関連店舗棟(右奥)、太陽光発電パネルとHydro Q-Bic(手前)
年間エネルギーシミュレーション(設備容量決定、運用方法の評価)

今後の展開

災害に強いレジリエントなまちづくり

再生可能エネルギーから製造したCO2フリー水素を利用することで、建物や街区の脱炭素化を図ります。平常時は街区や建物の中で電力を賄いつつ、余剰電力を水素に変換して貯蔵します。災害時等には貯蔵した水素を用いてエネルギー利用することにより、事業継続や生活を維持するためのエネルギーを安全・確実に供給できるようにします。さらに、郊外で製造し、輸送されたCO2フリー水素の利用や燃料電池車等のモビリティと連携し、スマートシティ実現に向けて取り組んでいきます。