2020.01.21

テクニカルニュース

環境

紙素材を活用した現場仮設資材「KAMIWAZA」

当社は、古紙やパルプから作られる紙素材を活用した建設現場の仮設資材「KAMIWAZA」を開発しました。

KAMIWAZAは、様々な紙素材を利用したソリューションの総称です。近年、紙素材の高機能化が進み、建材に求められる強度、耐火・耐水性能を満足する製品も現れてきています。当社では、鋼材や木材に比べて軽量で取り扱いが容易な紙素材を活用することで、生産性向上と高齢作業員・女性作業員に優しい現場を目指します。

また、リサイクル可能な紙素材ならではの特性を活かして様々な現場での活用・展開を進め、SDGs実現に貢献します。

王子ホールディングス(株)との共同開発

KAMIWAZAによるトンネル風門対策
KAMIWAZAによるトンネル風門対策

特殊強化段ボール「ハイプルエース」を活用した遮風、防音

特殊強化段ボール「ハイプルエース」(王子インターパック製)は、重量物の包装資材としてだけでなく、表面に耐水加工をしたものは魚運搬用の生け簀、冷凍マグロの梱包材として木箱の代わりに使用されています。

それぞれの形状に即した梱包材として広く採用されていることから、軽量で形状の自由度がありながらも衝撃吸収性能と強度を併せ持つ特性に着目し、トンネル毎に大きさや形状の調整が必要な風門への適用を図りました。

ハイプルエースの性能

  • 運搬が容易:木材に比べて軽量(3層で厚さ約15mm、2.2kg/㎡)
  • 形状の自由度が高い:カッターで加工でき、現場での微調整にも柔軟に対応可能
  • 省スペース:折り畳めるので、コンパクトに収納可能
  • 環境配慮型素材:ほぼ100%リサイクル可能
  • 高耐候性:湿潤状態(湿度60%~70%)で1年経過後も設計強度を保持
  • 高剛性・高強度:重量物の梱包・運搬に利用(例:マグロ梱包箱)
ハイプルエースの断面図
ハイプルエースの断面図

トンネル風門への適用で、生産性を向上

山岳トンネルは貫通時の外気進入によって、トンネル内の温湿度環境が急激に変化することで、覆工コンクリートがひび割れやすくなります。この外気の進入を一時的に防止するために「風門」と呼ばれる遮風設備を設置します。

従来の風門は、ナイロン製のバルーンを膨らませたもので、設置に使う鋼材などをクレーン車で吊り上げる必要があるため工数が多く、コスト、人員などが負担となっていました。そこで、必要な強度を有し、かつ、軽量なハイプルエースを採用。あらかじめプレカットし、折り目加工をすることで、作業効率を高めました。枠組み足場を組み、足場に引っ掛けるためのL字型の切れ目を入れたハイプルエースをはめ込むだけの簡単な仕組みにすることで、容易かつ確実に固定できるようにしました。

一般県道諫早外環状線道路改良工事((仮称)4号トンネル)での風門組立作業は、高所作業車1台、作業員6名、約半日で組み立てることができ、従来工法と比べ、工数、人員ともに削減することができました。また、トンネル毎に形状や寸法が異なることから従来のバルーンは使い捨てであるのに対し、ハイプルエースはリサイクル可能であり、形状の調整が容易であるため、コストも従来工法の約半分に縮減できました。

KAMIWAZAによる風門組立作業をより簡易にするための4つの工夫
KAMIWAZAによる風門組立作業をより簡易にするための4つの工夫
動画:一般県道諫早外環状線道路改良工事((仮称)4号トンネル)風門組立作業(0:38)

鋼管杭打設時の騒音を防ぐ

油圧ハンマーによる鋼管杭打設
油圧ハンマーによる鋼管杭打設

また、ハイプルエースは内部に空気層を含んだ3層構造の段ボール材であるため、高い遮音性能を有していることも特長の一つです。

鋼管杭の打設に使う油圧ハンマーは、施工時に発生する非常に大きな騒音(130dB(A)以上)を抑えることが課題となっており、防音カバーを設置しても開口部からの音漏れ等により、十分な効果が得られていませんでした。

そこで、ハイプルエースの遮音性と加工性を活かした開口塞ぎ部材を考案しました。塞ぎ部材と油圧ハンマーに設置した防音カバーの内側の隙間が最小になるように設計し、また、鋼管杭に簡単に設置できるよう、2分割の構造にしました。

  • ハイプルエースで作成した開口塞ぎ部材
    ハイプルエースで作成した開口塞ぎ部材
  • 開口塞ぎ部材の設置状況
    開口塞ぎ部材の設置状況

杭打設地点から30m離れた位置の騒音を計測した結果、ハイプルエースを使った塞ぎ部材によって、騒音が約5dB軽減されることが確認できました。特に、周波数が1〜4kHzの範囲では、最大9dBの軽減効果が得られました。

開口塞ぎ部材設置前後の打設時騒音測定結果
開口塞ぎ部材設置前後の打設時騒音測定結果

木材パルプ不織布「ハトシート」を活用した断熱

ハイプルエースの他にKAMIWAZAに採用した素材として、木材パルプ不織布「ハトシート」(王子キノクロス製)があります。吸収した液体の拡散性、保持力、揮発性をコントロールしやすい木材パルプを主原料としているため、断熱性だけでなく、吸水性や保水性が非常に高いのが特長です。この特長を活かし、コンクリート品質確保のために夏場の温度上昇を避けたい骨材貯蔵施設の断熱カバーとして実用化を図りました。

ハトシートの性能

  • 高断熱性:真夏の屋外での建物表面温度5℃〜15℃の抑制効果
  • 高吸水性:自重の10倍程度の吸水が可能
  • 高保水性:おしぼりや消臭剤の芯材として利用
ハトシートの断面図
ハトシートの断面図

アースカラークールシートを防護ネットに応用

大型設備のアースカラー塗装
大型設備のアースカラー塗装

トンネルやダム建設現場では、上空を飛ぶ猛禽類などの動物に対して、人工物による視覚的な刺激を最小限に抑えるため、設置する大型設備の塗装を注意喚起色の黄色などから周辺の樹木に近い緑色や茶色(アースカラー)に塗装しています。

しかし、アースカラー塗装は太陽光を吸収しやすいといった欠点があり、施設内温度を上げたくない骨材貯蔵施設では採用されないことが多く、自然生態系対策とコンクリートの品質確保が両立しないことが課題となっていました。

骨材貯蔵施設での一般的な熱対策
骨材貯蔵施設での一般的な熱対策

KAMIWAZAでは、断熱性、吸水性、保水性に優れるハトシートを袋状の防塵ネットに入れて利用しました。緑色と茶色の防塵ネットでアースカラーを表現し、避難ばしごにくくりつけた断熱カバーを「アースカラークールシート」として実用化しました。アースカラークールシートで骨材貯蔵施設の壁面を覆い、上部から定期的に散水することでハトシートの湿潤状態を保ち、骨材の温度上昇を防ぎました。

アースカラークールシートの設置状況
アースカラークールシートの設置状況

断熱性試験(簗川ダム 骨材貯蔵施設)

アースカラークールシートと従来工法の性能比較を行いました。施設周囲に断熱材を設置した状態を基本として、Case1は断熱材のみ、Case2は黒色ネットを使って断熱性能を高めたもの、Case3は今回開発したアースカラークールシートによるものになります。

アースカラークールシートで骨材貯蔵施設の壁面を覆った様子
  • 試験期間:2019年7月〜2019年9月
  • 試験範囲:幅3m、高さ10mの範囲に設置
  • 試験条件:上部の散水ホースから1日1回程度散水することで湿潤状態を維持
  • 試験方法:施設の表面温度(13ヵ所)を15分ごとに計測

表面温度の計測

日中の平均気温が22℃以上となった計測期間のいずれの日時においても、計測温度はCase1>Case2>Case3となり、アースカラークールシートの効果を確認することができました。例えば、断熱材のみで覆われたCase1で最高温度(40℃)を記録した7月31日のCase2の温度は29℃、アースカラークールシートを設置したCase3は27℃となり、13℃ほどの温度抑制効果が明らかになりました。また、アースカラークールシート(Case3)の計測期間中における最大効果として、Case1に比べて約15℃、Case2との比較でも約5℃の抑制効果が得られました。

表面温度の計測結果
温度抑制効果の確認(左:Case1(断熱材のみ)、右:Case3(断熱材+アースカラークールシート))
温度抑制効果の確認(左:Case1(断熱材のみ)、右:Case3(断熱材+アースカラークールシート))
アースカラークールシートは濃い緑色と薄い茶色を格子模様に配置したことで、茶色一色の骨材貯蔵施設に比べて、周囲の木々にも調和している
アースカラークールシートは濃い緑色と薄い茶色を格子模様に配置したことで、茶色一色の骨材貯蔵施設に比べて、周囲の木々にも調和している

今後の展開

工事の生産性、環境性能の向上を目指して

KAMIWAZAの現場適用によって、高機能な紙素材を仮設資材として活用することが十分に可能であることが確認できました。

紙素材の軽く加工しやすいという元来持っている特長に加えて、高強度、高耐久性という新たな機能が建設資材としての可能性を拓き、遮音性、断熱性、吸水性、保水性といった紙素材ならではの機能に再び目を向けることで生まれたKAMIWAZAという商品群によって、様々な形での現場環境の改善に寄与することができました。

今後も紙素材の持つ特性を活かし、建設現場の防音壁、紙製音響管、トンネル坑内における吸音ボックスなどへの応用を検討中です。リサイクル可能な紙素材を活用したKAMIWAZAシリーズのラインナップ拡充に取り組み、建設現場の生産性向上、現場作業員の負担軽減、そして持続可能な社会づくりに貢献します。