2021.12.6

事例

環境

施設価値向上

健康・快適

アネシス茶屋ヶ坂

木質化技術のショーケースとなった名古屋の新社宅

近年、中大規模建築物の木造化・木質化のニーズが高まっています。国内産木材を都市の建築に活用することは、森林から都市部までを持続的に活性化することにつながり、循環型・低炭素社会の実現に大きく貢献するものです。そうした視点から、名古屋の市街地に建っていた当社の社宅を建て替える際に、当社開発による木質化技術を本格的に採用したのが、このアネシス茶屋ヶ坂です。

アネシス茶屋ヶ坂

「サステナブル建築物等先導事業(⽊造先導型)」に採択

住戸界壁や外壁など遮音性・気密性が求められる部分はRC造とする一方、木柱・梁、CLT耐震壁など居住空間に面する部分に木質構造を積極的に取り入れました。柱、梁の主要構造部に木質耐火部材「スリム耐火ウッド®」の初採用や、接合部に木質ハイブリッド構造技術「シミズ ハイウッド®」を採用するなど、耐震性、耐火性とともに木ならではの快適な居住性を実現します。使用した木材はすべて国内産で約220m3に及びます。なお、この取り組みは国⼟交通省から2018年度の「サステナブル建築物等先導事業(⽊造先導型)」に採択されています。

スリムな被覆層で耐火性能を備えた「スリム耐火ウッド」

「スリム耐火ウッド」は構造部材である木材の周囲を耐火被覆でカバーし、さらに化粧材(木材)を巻いた木質耐火部材です。被覆材を強化石膏ボードと加熱により発泡する耐火シートを採用し、二重の燃え止まり層にすることで薄い被覆層で耐火性能を確保することができます。実案件としては初採用となったアネシス茶屋ヶ坂では柱や梁などの主要部分に使用され、木質とRCのコントラストが特徴的な建物の外観を構成しています。

スリム耐火ウッドの構成
スリム耐火ウッドの構成
スリム耐⽕ウッドによる⽊質フレームとRCフレームがリズミカルな表情を演出している
スリム耐⽕ウッドによる⽊質フレームとRCフレームがリズミカルな表情を演出している

木質とRCのいいとこ取り「シミズ ハイウッド」

「シミズ ハイウッド」は、プレキャストのRC接合部材を介して、木質構造とRC造・S造といった異なる構造の柱同士や柱・梁を接合・一体化して構造体を形成する中大規模建築向けの木質ハイブリッド構法です。異なる構造・部材の柱や梁の接合部に十分な耐震性(剛性)を確保しつつ、施工の容易な接合方法とし、火災時の木質部材の芯材への熱伝導を抑制するなど、木造建築ならではの課題をクリアした技術となっています。

プレキャストコンクリートによる剛性を高めた接合部がシミズハイウッドの特長
プレキャストコンクリートによる剛性を高めた接合部がシミズハイウッドの特長
住⼾内リビングからスリム耐火ウッドの柱・梁越しに外の景⾊を⾒る
住⼾内リビングからスリム耐火ウッドの柱・梁越しに外の景⾊を⾒る

設計担当者よりひとこと

木質ハイブリッド構造はここからはじまる

もともとRC造の計画だったのですが、建築物木質化の社会的ニーズの高まりと当社の木質化に関する技術開発の実用化を鑑み、木質ハイブリッド構造をメインテーマとしたプランを作成することになりました。「スリム耐火ウッド」も「シミズハイウッド」も要素技術としては完成していたものの、実案件への適用は初めて。さまざまな課題があったところ、技術研究所をはじめ、社内外の多くの方にご協力いただいて実現できました。環境負荷低減や利用者に健康・快適な建築が求められる中で、建築の木質化はひとつの方向性となり得ると考えています。木質ハイブリッド構造の建物の記念すべき第一歩に携われたことを誇りに思っています。

名古屋支店 建築設計部 グループ長 佐々木 喜啓

RCと木造を“適材適所”で

木質ハイブリッド構造がテーマとなった時に考えたのは、RCと木造をそれぞれの特性に合わせて住宅の中で使い分けることでした。遮音性や耐震性が必要な部分をRCで、居住空間を木質化でという適材適所の使い方を心がけました。また、木質化を内部だけでなく外観にも積極的に使い、木のあたたかみが地域にも表出することも考えました。やはり本物の木を使う効果は大きいと思います。シミズハイウッドやスリム耐火ウッドは、建物用途や法的制約を解消しながら木質化を行う手法として有効であると確信できました。居住者アンケートでも木質化への評価は高く、狙い通りの建物ができたと嬉しく思います。

設計本部 木質建築推進部 長澤 怜

施工担当者よりひとこと

さまざまな工夫を凝らした初の木質化施工

木質ハイブリッド構造の建物を手がけるのは初めてだったので、いろいろなことを考え進める現場になりました。本施工に先立ち、1住戸分を躯体工事から外装仕上げ工事まで、1/1スケールのモックアップで「スリム耐火ウッド」の部材を製作するときの手順、注意点、問題点を確認し、基準を作りました。また、施工においては取付の手順、方法、精度管理、養生方法など、あらかじめ計画した施工方法の確認とブラッシュアップを行いました。また、コンクリートと木材の取合い部分については、木材がコンクリートのアルカリ成分を含んだ水で汚染されないよう注意したり、木質部材については、できる限り天候が工事に影響しないよう計画するなど、木質化施工ならではのノウハウも蓄積できたと考えています。私は実際にアネシス茶屋ヶ坂に住んでいますが、やはり木のあたたかみのある住まいはいいですね。ほんのり木の香りがするところも気に入っています。

名古屋支店 建築部 瀬田 匡