2018.06.27

鍵を探せ!

アクセシビリティ向上による“人に寄り添う施設づくりの鍵”

迷ったら施設に尋ねてみよう 施設と人が対話するナビゲーション2.0

例えばはじめて降り立った外国の空港。現地の言葉も話せず、案内板の文字も読めない場合、電車やバスへの乗り継ぎはもちろん、出口を探すのもひと苦労だ。そんな施設でのちょっとした不便を解消しようと、清水建設は日本IBMとともに新たな技術開発を進めている。

近道も、段差のない道もご希望どおりに施設がエスコート

スマートフォンを通じて施設データと対話する

空港に降り立ったあなたを導いてくれるのは、清水建設と日本IBMが共同開発している音声ナビゲーションシステムだ。スマートフォンアプリに目的地を告げるだけで、施設の構造や設備のデータを読み解いたAI(IBM Watson)が、歩いている位置に合わせてルートを音声で教えてくれる。例えば「3メートル先を右折してください」「スロープを下って正面のエレベーターで1階へ降りてください」といった具合だ。データの中には自動ドアやエレベーター、段差や手すりの位置情報はもちろん、スロープの勾配などあらゆるものが含まれている。それらを活用して健常者には最短ルートを、車椅子の方には階段や段差のないルートを、視覚障害者の方には点字ブロックのあるルートを選んで教えてくれる。もちろん外国語にも対応可能だ。

音声ナビゲーションを可能にするのは、10〜15メートルおきに設置するビーコン(電波発信器)と施設データ、スマートフォン、そしてAIの組み合わせだ。複数のビーコンが発する信号をスマートフォンがキャッチして利用者の位置を把握。施設データにもとづいて案内する。これまでは空港のグランドスタッフに尋ねる、または案内板を見るという常識を、スマートフォンに話しかけるというスタイルに置き換えようという取り組みだ。実際の商業施設における有用性を確認するため、日本橋室町地区(コレド室町など)での実証実験も行った。

IBM Watson…IBMが開発した画像や音声、文書など非構造化データの洞察を得意とするAI。IBMではAugmented Intelligence(人間の知識を拡張・増強するもの)と定義している。

エレベーターの操作も手元のスマートフォンで

スマートフォンがフォローできるのはルート案内だけではない。例えば目の不自由な方や車椅子の方をエレベーター前まで誘導できたとしても、ボタンの位置がわからない、または手が届かないということもあるだろう。そのような場合に備えて、設備のシステムとスマートフォンをつなぎ、ディスプレイ上に表示されたエレベーターのボタンを手元で操作出来る技術も開発。自社の研究施設で検証を行っている。

エレベーター前に人がいたり、押しにくい位置にボタンがあってもこれなら大丈夫。この技術を応用すれば、ゆくゆくは空港内での航空機チケットの購入からチェックイン、さらには到着後のバスやタクシーの手配などにいたるまで、すべてスマートフォンで完結出来るようになるかもしれない。

そうなれば案内板やデジタルサイネージのあり方はもちろん、施設内での人員配置から利用者の流れにいたるまで大きく変化していくだろう。

利用者の口コミに、交通機関の運行情報―データが増えるほど施設はもっと雄弁に

あなたが欲しいものは、全て施設が答えてくれる

音声ナビゲーションシステムが案内出来るのは、ルートだけにとどまらない。構造・設備データだけでなく利用者の口コミデータなどともつながることで、例えばこんな活用の仕方も考えられるだろう。

空港から出張先のオフィスがある市街地へ行くためには、1時間後に出発するバスに乗らなくてはならない。時間はあまりないが長時間のフライト後でお腹も減ったし、打ち合わせ前に食事をしておきたい。そんな時は、スマートフォンに「お腹が空いたので、何か食べられるお店はないかな?1時間後のバスに乗り遅れないよう、すぐに食べられるものが良い。できれば美味しいコーヒーも飲みたい」と尋ねてみればいい。AIがスマートフォンを通じて空港内のカフェやレストランのデータから、要望通りのお店を選んで案内してくれるだろう。「美味しいハンバーガーを食べられるお店があります。ハンドドリップで淹れるコーヒーの評価も上々です。空港内のバスターミナルにも近いですし、今なら空席もあるようですが、ご案内しましょうか?」とくれば、初めての場所でも不便さは感じない。他にも「子ども連れでも気兼ねなく入れるお店」や「乗り継ぎまでの時間内に、観光客に人気のお土産を買えるお店」など、難しい要望にだって答えられる時代はすぐそこまで来ている。

AIの進化と、スマートフォンの普及によってこれらの未来を実現する準備は整った。この先はさらなるデータの充実とビーコンの設置が進めば、施設内での音声ナビゲーションの可能性はますます広がっていくだろう。

物理的な壁や言葉の壁に阻まれず、誰もが施設の魅力を100%享受できる―。そんな未来を、清水建設は描いている。