2018.09.18

ConTECH.café

高層ビル街で伊藤若冲を思い浮かべる

荒川のワンドで童心に帰る

5年前、あらかわ市民会議(国土交通省荒川下流河川事務所・足立区)に区民委員として2年間参加した。大半の委員がNPOなどで荒川の河川敷の美化や希少生物の保護に取り組むなか、私は、小津安二郎の『東京物語』での堀切からの河川風景が印象に残っており、加えて都心からの帰路、荒川を渡る地下鉄から見る夕景がなんとなく好きだなぁという理由だけで参加した。

三十数年足立区に住み、数え切れないほど荒川を越えていながら、荒川が人工河川であることを知らなかった。(関西出身者の多くがそうだと思うが…)「ワンド」ということばも、この会で初めて知った。

湾処。河川沿いの本流に接した一種の池。

この水たまりが、実に豊かな生態系をつくっているのだ。ビオトープも、このワンドを人為的にビル街やビルの屋上に再現したものだ。干潮時、ワンドの周辺の水の引いた水底では、あちこちでシオマネキがうじゃうじゃ。ドキドキした。捕まえて、家に持って帰りたくてしょうがなかった。

そこで、絶滅が危惧されているヒヌマイトトンボの生息が確認されたと聞き、思わずワオッと声をあげた。東京でも、ちょっと自然豊かなところではアジアイトトンボとかクロイトトンボにはよく出会うが、ヒヌマイトトンボは初めて聞いた。基産地が茨城県の涸沼。1972年に初めて新種として記載された。

ちなみに、世界には約5,500種のトンボ(秋津とも呼ぶ)がいて、日本には約200種も生きている。まさに「秋津洲」、トンボ列島なのだ。

3.11、宮城福島の海岸から大半が消滅した

欲しくてたまらないが、図書館で借りて我慢している図鑑がある。文一総合出版の『ネイチャーガイド 日本のトンボ』。オールカラーの531ページ。税別5,500円也。ズシリと重い。借りる人が少ないようで、2012年の初版ながら、いつも新品同様。それを、年に数回、独占できているのだ。

それによると、ヒヌマイトトンボは、環境省レッドリストの中でも「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高い」絶滅危惧ⅠA類(ⅠAほどではないが2番目に危険性が高いⅠB類の地域もある)に分類されている。種間競争に弱いためヨシやマコモなどが密生した海岸沿いや汽水域の河口や湖沼でしか生育できず、分布を見ると太平洋岸を中心にぽつんぽつんとごくごく限られたところだけだ。そうした中で、荒川も、秩父とかの自然豊かなところではなく、下流の足立区の中心である人口密集地の北千住のすぐそばで生きてることは、奇跡であり神秘だ。残念ながら、シーズンに何度も足を運んだが、まだ遭遇していない。とうぜんだが…。

六本木で赤とんぼの大移動を見た

六本木ヒルズにあるテレビ朝日の横に、毛利庭園がある。桜のシーズンになるとライトアップされ、よくテレビ中継され、ニュースでは、そこからお天気キャスターや女子アナが天気予報をしている。しかし、そこの池でカエルの合唱が始まったとかヤゴがいたとは余り伝えられない。

ビオトープ。人工的に作った生態系そっくりの自然環境。ワンドがここに再現されているわけだ。たまたま通りかかった時、そこで孵化したのかはわからないが、アキアカネ(いわゆる赤とんぼ)の大群に遭遇したことがある。夕方だったから、キラキラと翅が夕陽を反射して、それはそれは幻想的だった。

唐突に、伊藤若冲の「池辺群虫図」を思い出した。

それには、カエルにオタマジャクシ、ヘビにトカゲ、ケムシにゲジゲジ、そして、トンボにキリギリス等々、虫嫌いなら悲鳴を上げそうなほど超リアリズムで描かれている。いまここ六本木ヒルズに、この若冲の世界が出現したら、さぞ壮観だろうな、と妄想したのだ。でも、きれいなチョウチョや可憐なイトトンボとかだったらインスタ映えすると大歓迎だろうけど、さすがにヘビとかゲジゲジもとなると…。確実にSNSの炎上だ。

でも、そもそも生物多様性って、人間が嫌いな生物(たぶん99.9パーセント以上)がいないと成立しないんだけどなぁ…。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト