2019.09.30

ConTECH.café

How many workers at this construction site?

東京は今日も普請中

わたしは、東京の城東地区に住んでいる。職住一体で、仕事で荒川を越えて都心に出るたびに、いつも、ある感慨にふける。風景が、また変わった!と。

新しいビルが誕生したと思えば、馴染みの施設やビルがいつの間にか消え、巨大なビルがいままさに建とうとしている。そうした現場を見ながら、「このビル、何人がかりで造られるのだろう?」といつも思う。ビルだけではなく、道路や橋、駅に、目に見えないトンネルなど地下の施設しかり。

10万人と20万人

ともに超有名な建造物に関わった労働者の人数である。

前者は、およそ4,450年前の古代エジプト文明のレジェンド、ピラミッド。もっとも有名で最大規模なのがクフ王のもので、高さ147メートル(浸食などで現在は136メートル)、底辺の一辺230メートル。積み上げられた石は平均2.5トンを約300万個(200万個とも)。これを、ほぼ人力で「10万人の奴隷が20年かけて造った」。

後者は、約半世紀前の1964年の東京。国立代々木競技場第一体育館。世界でも珍しい吊り屋根方式で、設計は丹下健三。オリンピック開会式ギリギリの39日前に竣工。工期は1年半、のべ20万人が関わった。その雄姿を目の当たりにして、小学生の隈研吾は、建築家を目指すようになったという。

では現在、新しいランドマークになるであろうビルや施設では、どのくらいの人が働いているのだろうか。なるほど建設機械は日進月歩で進化し、従来は人海戦術に頼るしかなかった重い部材の運搬や単純繰り返しの作業が多い現場ではロボットによる無人化も図られているはずだ。その分、従事者数は、果たして大幅に減っているのだろうか。

わたしの使う東京メトロ千代田線の北綾瀬駅は、この春、大幅にリニューアルした。いままで3両編成だったのが10両対応のプラットフォームになり、始発も走るようになった。完成までの3年余り、相当数の作業員とすれ違った。外国人も多かった。

約2,500年前の古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの大著『歴史』による。これが長年定説だったが、実際はハリウッド映画に出てくるような奴隷ではなく、庶民がビールの報酬で従事したらしい。期間も、現代のような重機などない当時、どう考えても軽く数百年はかかったと言われている

「課題先進」業界として建設業界を考えてみると

地方の衰退などをテーマにした社会学の本や論文で「課題先進県」という言葉をよく目にする。確か、3.11を契機に福島でいっきに露呈した急激な人口減少、少子高齢化といった深刻な難問に対して、10年先、20年先の日本が確実に直面する課題を、福島はいまの段階で「先取り」しているという意味合いで使われだしたのだと思う。

インフラの危機的老朽化、限界集落、耕作放棄地の激増と森林の荒廃、空家の増大と治安の悪化、消滅都市、都市部での買い物難民激増、認知症の国民病化等々、暗澹たる言葉が次々に出てくるが、それで検索してみると、まだまだ少ないが、シビアな危機感を募らせる秋田や徳島でも、ネガティブさを逆手に取ったユニークなチャレンジがなされていることに、ちょっと安堵する。

この「課題先進」性は、建設業界にもまさに当てはまるのではないだろうか。職人・技術者の高齢化、それに伴う技術継承の困難と途絶、競争力の低下、もっとも深刻な人手不足、外国人労働者問題等々、可及的速やかに解決すべき課題が山積である。先延ばしは命取りになる。

だからこそ、ただ手をこまねくことなく、IoT、ICT、そしてロボット(無人化)、AIに萌芽段階でいち早く注目し、その応用研究と技術開発を、他業界に比べずっとアグレッシブにスピーディに取り組んでいるのも建設業界と言えるのではないだろうか。

乾いた雑巾を絞る。ない袖をあるものとして振ってみる。そこから生まれるイノベーションは、きっと明日をワクワクさせる。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト