2020.02.19

ConTECH.café

文系コピーライターの周回遅れのAIのお勉強 その1

6,678ページ、約1.5キロの本

「科学技術基本法」を読むために図書館へ行った。

コピーライターとして新しい仕事に着手する際の、長年の儀式的習慣である。お目当ては『六法全書 平成31年版』(有斐閣)。手に取って中を見るのは初めてだ。2分冊を同時に持つのは至難で、一冊でもとにかく重い!これが足の上に落ちたら、痛いどころではない。それにハズキルーペが必須だ。というわけで、結局は、帰ってからe-Govという総務省の法令検索サイトに世話になった。

のっけから脱線するが、日本の法律の数、ご存じ(?)e-Govを見ると、8,196法令(平成29年4月1日時点)もあるらしい。内訳は憲法1、法律1,954、政令2,098、勅令72、太政官布告・達10、閣令・府令・省令3,698、規則(行政機関の発する規則)363。われわれの暮らしの秩序は、これだけの法律(正確には法令)によってとりあえずは保たれているわけだ。意識していないだけで、誰しもが生きている以上、法律と無縁ではいられないのだ。

なぜ「科学技術基本法」を読もうとしたのか。遅まきながらAIについてちょっと真面目に勉強しようと思い、まずは国がどのようなビジョンのもとAIを活用した将来像を描いているのかを調べていると「第五期科学技術基本計画」にたどり着いた。そして、その計画のベースとなっている根拠法令こそが科学技術基本法なのだ。

科学技術基本計画というものがあり、すでに五期目であり、それも4年前にスタートし1年後の令和3年の3月に「世界で最もイノベーションに適した国」になっているらしい。知らなかった。周回遅れどころではなく、浦島太郎だ。

第一条に感じたちょっとしたひっかかり

科学技術基本法は全5章・全18条の法律で、読むのに5分もかからない(とうぜん、理解は別だが…)。

平成7年11月15日に施行され所轄は内閣府。同法の制定を推進した文部科学省のホームページには、日本の科学技術政策に基本的な枠組を与えるもので、日本の「科学技術創造立国」を目指して科学技術の振興を強力に推進していく上でのバックボーンと位置づけられていると記されている。短いのに、けっこう重要な法律なのだ。

この法律では、科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ)の振興に関する施策の基本となる事項を定め、科学技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、我が国における科学技術の水準の向上を図り、もって我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに、世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的とする

このように第一条で目的が述べられ、第九条では、科学技術基本計画の策定が政府に義務づけられている。同時に、計画の策定に当たっては、総合科学技術・イノベーション会議の議を経なければならないとしている。

わたしは、この第一条の但し書き(人文科学のみに係るものを除く)にひっかかった。人文科学のみに係るってどういう意味だろう。人文科学は人文・社会科学の意味で使われているのだろうが、科学技術にその分野の知見は不要だと言っているように読めるのだ。

実際、内閣府のホームページを見ると、その会議について詳しくわかる。錚々たる人たちがメンバーになっている。しかし、やっぱり、哲学者や社会学者といった人文系はゼロなのだ。AIはもちろんのこと、iPS細胞やゲノム編集など再生医療、あるいはSDGsにおいて、哲学者、倫理学者、社会学者、法学者、経済学者といった人たちの知見は本当に必要ないのだろうか。

人文知がイノベートするものが、きっとある

ここまで書いて来て、同会議が1月17日の会合で、人文・社会科学を科学技術基本法に加える方針になったという毎日新聞の記事(平成31年1月17日)を発見。ああ、よかったよかった。

同時に「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」が平成31年の4月1日に施行されたことも知った。その四九条には確かに人文科学の文言が盛り込まれている。やっとこさ科学技術創造立国を名乗るに恥じない環境整備へのスタートラインに立ったのだ(と思う)。

予備学習に手間取ってしまった。本稿では第五期科学技術基本計画の自己流「読み解き」をやってみるつもりだったが、紙幅が尽きた。恐縮ながら「その2につづく」。ご容赦。

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト