2020.10.05

ConTECH.café

AI礼賛!

こころがときめいた二つのビッグニュース

これまでAIについて、どちらかと言えば、斜に構えた「論のふりした感想文・印象論」を書き綴ってきたが、今回は、正直「AIがここまで進歩していて、ほんとうによかった!」と喜んだ、ハッピーなことを素直に書く。

まず一つ目が、グーグルの「円周率の小数点以下の計算で世界最高を更新」のニュースである。試しに10桁まで覚えていたはずなので書いてみた。3.141592までは書けたが、つづく6532がまったく思い出せなかった。それが、小数点以下約31兆4千億桁!まで計算したのだ。いままでの世界記録を約9兆桁上回る偉業。スゴい!の言葉しかない。

そのプロジェクトリーダーが、筑波大学で計算科学を専攻した日本人技術者、岩尾エマはるか(エマ・ハルカ・イワオ)さん。名は体を表すの通り、ご両親は娘の偉業を予見して「はるか」と名付けたのではないだろうか。

グーグルならではのネットワークを利用した最新のクラウドコンピューティング技術で111.8日間かけて計算。その割り出したデータの貯蔵にはブルーレイディスクが2000枚!まったく想像できない。

そもそも円周率って何に使うのだろう?ほぼ小学生レベルのわたしは、調べた。へぇ~そうだったのか!の連発。久しぶりに味わう、無知が「わかった!」愉悦。

まず、宇宙における軌道の計算、具体的には地球を周回する人工衛星の動きの計算に、円周率は欠かせないらしい。では、何桁までの精度が必要なのだろう。桁が多いほどいいと思っていたら、NASAではわずか15桁で十分らしい

実際2015年に地球から約195億3,600万kmまで到達したボイジャー1号打ち上げでは、14桁と15桁で計算したところ誤差は11.7216cmだったらしい。

「それって何の役に立つの」を禁句にしてみると

けれども、グーグルは約31兆4千億桁まで計算した。きっと「そこまで計算しても無駄じゃん。何の役にも立たないんだから」と言う生産性・効率絶対主義者は一定数いる。しかし、わたしはそんな日本国民に、いまこそ声を大にして言いたい

いま役に立っているものは、すぐに役に立たなくなる。何が役に立つかの決定的な評価が下るまでに数十年かかることもある。目に見える、形になるものだけが役に立つということではない。

2016年にノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典さんの言葉だ。

ちなみに、小人のわたしのモットーは、夏炉冬扇。これもまた、いいもんだよー。

二つ目のトキメキに入ろう。日本の国立天文台など国際共同グループによる世界初の「巨大ブラックホールの撮影の成功」だ。有力だが、あくまでも、「あるはず」という推測の域にとどまっていた仮説が、実際に「あった!」という事実になったのだ。

M87銀河(ウルトラマンは確かM78星雲光の国だったなぁ)にある直径1,000億kmのドーナツのようなブラックホール。明るい円盤部分ではなく、中の黒い影の中央がブラックホールらしい。まったく想像できないが、質量は太陽の65億倍。光さえもその桁外れの重力にからめとられて逃げ出せないらしいが、わたしにはイメージさえできない。

チリ、ハワイ、スペイン、南極などの8か所の電波望遠鏡を連動させて視力300万(月の表面にあるテニスボールがはっきり見える)の地球規模の巨大な電波望遠鏡にし、原子時計で計測時間を合致(同期)させる。収集したデータはアメリカとドイツのスーパーコンピュータで解析し、日本がそのデータの統合の役割を担い、約1年後、「5,500万年前の姿」が1枚の写真として見えたわけだ。まったくわからないのに、とにかく嬉しい。そして、とても誇らしい。

見えたからといって、この日常が変わるわけではない。でも、とてつもない未来の地球をなんとなく想像したくなる。なんか明るい気持ちになる。

「わからない」の自覚が切り拓く世界

ちょうど『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない』(ジョージ・チャム、ダニエル・ホワイトソン著 ダイヤモンド社)という痛快な、まさに副題の「この世で一番おもしろい宇宙入門」に嘘偽りのない入門書を読み終えたタイミングで飛び込んできたこのビッグニュース。「ここまでわかった宇宙」はほんの少しで、「わからない宇宙」がほとんどだと教えてくれたわけだが、宇宙に限らず、他の科学分野でも事情は同じなのだと思う。なぜ睡眠があるのかも未解明だし、生命の定義も意識の定義もまだ確定していない。AIだけが、例外のはずがない。

ただ、この二つのビッグニュースは、AIの進歩が大きく貢献したであろうことはわかる。

わたし個人に限って言えば、AIのこと「まだまだわからない」ことばかりだ。そのことを自覚できたいま、なんか「面白そうな」世界が見えてきそうな予感がする。これって、成長かな?

大槻 陽一
有限会社大槻陽一計画室 ワード・アーキテクト