2021.10.04

コラム ConTECH.café

窓外に見える富士山は本物か?

VR/AR/MR/SR。全部まとめてXR

ライターという仕事をやっていると、先端技術にチャレンジしている研究者や関係者に取材する機会がよくある。
僕はプロのライターなので、クライアントの「この先端技術を知っていますか?」との問いかけには、「もちろん知っていますよ」と笑顔を見せて応えることにしている。
ところが、取材中に「うわ~、そんなこともできるんですか!」と真顔で驚き、「あっ、こいつ何も知らないんだ」と白い目を向けられることも・・・。

そうなってしまう要因のひとつに、先端技術の進化のスピードがやたら速いということがある。極端な場合、今日得た知識がひと晩で時代遅れになってしまのだから恐ろしい。

VR(Virtual Reality)もそのひとつだ。

身近なところで活躍するXR

VRとは、「人工現実感」や「仮想現実」といわれるテクノロジーである。HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着することで、ある種の異世界に入ることができるというもの。
2016年に各社から一斉に、一般ユーザー向けのHMDが発売されたことで、2016年は「VR元年」と呼ばれている。
その後、VRは進化し、現実の世界に仮想の世界を重ねるAR(拡張現実)や、仮想の世界と現実の世界を密接に融合させるMR(複合現実)、仮想世界を現実の世界に置き換えて認識させるSR(代替現実)など、さまざまに分裂し発展している。今後も更に成長して行くテクノロジーと考えられていることから、未知数を示す「X」を付け、「XR」と総称される。

XRは当初、ゲームなどのエンターテインメントでの活用が中心だった。そこからビジネスや産業分野にも進出している。

例えば、ECショッピングでの活用もひとつ。ECのよくある欠点は、パソコンや携帯では実際の商品の大きさなどがはっきりせず、購入してから「思っていたのと違った」となることだ。そのような場合でもXRだと、実物に近いものを見ることができることから、トラブル回避になる。

医療の分野では、外科手術のシミュレーションや、実際の手術のサポートに役立てることができる。また、患部のデータで映像を作り、拡大することで、体内に入ったような体験をすることもできるようになる。このことでより的確な手術を行うことが可能となるのだ。

その他、建設業界や様々な業界で、XRを用いて生産性やサービスの向上を図ろうとしている。
今後は、我々の身近なところにXRが活躍する時代になって行く。

更なる進化を遂げるXR

しかし、XRを体験したことがある人は少数だろう。ゲームや展示会でXRを体験した人はいても、まだまだ一般的ではない。
HMDが大きくて重く、装着には違和感が伴うことも理由のひとつ。なので、XR の進化と共に、HMDの小型化が求められる。
実は既にHMDの小型化は進んでいて、普通の眼鏡と変わらないサイズにまでコンパクトになりつつある。
眼鏡メーカーを中心にさまざまな企業が開発に乗り出しているのが、眼鏡をHMDにすること。すると、さまざまな情報や映像は眼鏡上に映し出されるようになる。さらに、眼鏡サイズにまで小型化されたHMDを通して網膜に情報を投影する技術も実用化されている。
更にはコンタクトレンズにHMD機能を持たせ、視界にデジタル情報を表示させることが研究されている。これは日本の大学やアメリカのスタートアップが開発に着手していることだ。
小型化が発展すると、人工角膜か、眼球にインプラントでHMD機能を持たせるようになるかもしれない。

XRの世界では、公園でひとり静かに過ごしている人が実は、文字情報を読んでいるとか、映像を見て楽しんでいる、なんてことになる。
ビジネスマンは朝、目覚めると、その日のスケジュールが眼に表示される。営業で訪問先に行く際には道に矢印が浮かび、辿り着くまでのルートを教えてくれるだろう。ランチをするときにはあたりを見回すだけでどこにどんなお店があり、どんな食事ができるかまでわかるようになる。
早い話、今、携帯でやっていることが、携帯がなくともできるようになるというわけ。携帯はいずれ、XRと融合する。

現実世界と仮想世界の境界がなくなる世界

もっとXRが発展した時代では、現実世界と仮想世界の境界は意味のないものになってしまうと想像できる。
公園に行かなくとも、部屋を公園に変えてしまうこともできるだろうし、実際に営業に行かなくともバーチャル空間を作り、そこで会えばよくなる。その時、会う相手はアバターになっているかもしれない。
すると、何が現実で、何が仮想なのか分からなくなり、人々は混乱を起こしてしまう危険性はある。

歴史を見てもテクノロジーの進化は危険との背中合わせであることは事実。しかし、より良い未来のためにXRは進化すると期待したいもの。

例えば、事情があってペットが飼えない人はペットをバーチャルにする。犬や猫でなくても象でも鯨でも、絶滅した恐竜でも良い。好きなキャラクターでもいいし、モンスターだっていい。そんなペットがいることで、ほんの少しでも心が癒されるのなら意味はある。
また、バーチャルが発展するからこそ、リアルで人と会う、実際に人とコミュニケーションをとることに価値は高まるだろう。人と交わることの重要性が再確認できるようになると期待したい。

とりあえず、僕としては、XRで今のオフィス環境を改善したい。狭いうえに、窓も小さいからだ。
まず、XRで六本木ヒルズの最上階をオフィスにする。ちょっと疲れたとき、目をやると富士山が美しく輝いている、なんてことになっているとテンションも上がるというもの。
別に日本でなくともパリでエッフェル塔を眺めるでも良い。なんならISS(国際宇宙ステーション)から地球を見るのでもいい。そんな未来を考えるのはちょっと楽しい。

大橋 博之
ライター SFプロトタイピング フューチャリスト