2022.01.31

コラム ConTECH.café

ごまかすことができるバーチャルコミュニケーションの時代で求められる「真面目」。

同じ日に北海道と九州で仕事をする。

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の猛威はいまだ収まる気配がない。

僕はインタビューを専門としたライターだ。この仕事の欠点は、「人と会わなければインタビューは出来ない」ということ。そのため、2019年、2020年は仕事が一気に減ってしまった。が、2020年半ばから「オンラインでインタビューはできますか?」という依頼が増えてきた。今ではインタビューの8割はオンライン、2割がリアルという感じ。

オンラインのメリットは移動する必要がないことに尽きる。今までなら遅刻しないように早めに出て、訪問先近くのカフェで時間を調整してから向かう、ということが良くあったが、その必要がなくなった。開始10分くらい前にパソコンの正面でスタンバっていればいいのだからラクチン。

ただし、デメリットもある。出かけて見る風景や、カフェで時間をつぶす、そんなちょっとした余裕がなくなったこと。それでも同じ日に、北海道の人にインタビューをして、その後に九州の人にインタビューをする、ということができるし、海外の人へのインタビューもできる。そのメリットは代えがたい。

COVID-19が進めた10年

「COVID-19によって、未来に10年は進んだ」とよく言われる。

2016年に東京都知事が掲げた「満員電車ゼロ」は当時、「絶対にムリ」と思われていたが、COVID-19によってあっさりと実現された。これもある意味、理想の未来に近づいたと言える。社会は、「会社に行かないと仕事が出来ない」と考えていたのに、「オンラインでいんじゃね?」へと変化した。営業もオンライン。クライアントや社内の打ち合わせもオンライン。データが総てクラウドにあれば、会社にいなくても仕事が出来る。

そうなると「会社」そのものも必要なくなる。事実、スタートアップ企業の間では本社をシェアオフィスへ移す動きが相次いでいるという。スタッフの増加に共に広いオフィスへと移転を繰り返していたヤドカリスタートアップ企業は、その苦労からもう解放されたと言っていい。むしろオフィスはミニマムにする傾向にある。インタビューしたある社長は、「会社に行くのは貯まった郵便物を受取に行くためだけ」と笑っていた。

2012年頃にブームとなったノマドワーク。スターバックスコーヒーで米アップルのノートパソコンMacBookで仕事をするフリーランスが憧れだったこともあるが、今では普通の会社員がカフェで仕事をしている。街には電源やWi-Fi環境が整備されたコワーキングスペースも増え、オンラインワークを後押しする。

ツアーコンダクターやクルーズ船員、旅行ライターは「旅をしながら出来る仕事」として脚光を浴びていたが、一部の特権だったことが普通の会社員でも可能となった。都心を離れて郊外に移り住んだ会社員も少なくない。電話だってかけ放題の時代。営業代行を生業としている友達は沖縄に引っ越し、日本全国のクライアントとビジネスを展開している。仕事をするのに場所を選ぶ必要はなくなった。

オンラインをどう活用するかで未来は変わる

では、オンラインの時代で「コミュニケーション」はどう変化して行くのだろう?

オンラインの時代で「コミュニケーション」は、「その人がいる環境や、雰囲気」の再現に向かうと見られている。オンラインで、多くの人がバーチャル背景を使用するようになった。自分の部屋や生活環境を見せたくない、ということもあるが、自分らしさの演出やビジネスのPRに積極的に活用する流れになっている。バーチャル背景をどう使いこなすかが問われるようになり、バーチャル背景は使い勝手の良いものへと進化しているのだ。

また、オンラインの欠点として「場の共有」がないことが挙げられている。

僕の場合、わざわざ訪問してインタビューするのは、話の内容はもちろんのこととして、その人がいる環境や、雰囲気が大切な情報だったからだと今にして痛感する。無駄と思っていたところに意外な情報が潜んでいるものなのだ。新入社員が会社に行くことなくオンラインで仕事をしなければならず、孤独を感じて退社するケースが多発しており問題となっている。

僕が知っている会社では、社員1人ひとりがオンラインを常時接続の状態にし、何かあればすぐに同僚や社長に繋がることが出来るようにしている。今後は大企業でも、より積極的なオンライン利用が進むだろう。記録として残すべきことはチャットを使い、話をした方が速い場合には、こまめにオンライン会議を開く。出社していた時よりもコミュニケーションは活発になって行く。
別の僕が知っている会社では、社長が社員とオンラインランチをしている。総務系など社長に近い社員とのランチ会はこれまでも行われてきたかもしれないが、オンラインだともっと幅広い社員との交流を図ることができ、ダイレクトに社員の要望を知ることが出来る。そのため社員とのエンゲージメントは高まっているという。

オンラインは人との距離が遠くなると考えられていたが、上手に活用することで、より深いコミュニケーションが取れるようになるのだ。オンラインをどう活用するかで未来は変わって行く。

仮想空間でのコミュニケーションに求められるもの

オンラインが発展した時代では、人々は会社に行くことなく、小型のHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着し、仮想空間の中でパソコンに向かって仕事をするようになるかもしれない。HMDを通じて人と会い、コミュニケーションするのが普通になる。プライベートでもネット上にコミュニティが数多くでき、人々は一日中、仮想空間で人とコミュニケーションする。

そんな仮想空間では自分自身をアバターで見せることが一般的になるだろうが、僕としては、アバターに頼ることなく、自分自身の本当の顔で人と接したい。素顔をさらすのはリスクという意見もあるだろうが、嘘のない自分でいたいと思う。ごまかすことが簡単になるバーチャルコミュニケーションの時代だからこそ、真面目であることが重要になっていくように思う。

大橋 博之
ライター SFプロトタイピング フューチャリスト