2022.03.07

コラム ConTECH.café

超小型モビリティが走り回る未来都市

簡単な移動手段はないものか

ライターという仕事をしていると、取材で地方に行く機会がよくある。だけど、目的地が駅から徒歩で30分なんてときは頭を抱えてしまう。

地元の人たちは歩くということをあまりしなくて、近場でも自動車を使う。徒歩で30分でも自動車なら10分程度。なんてことはない。だが、こちらは電車でやって来た身。バスやタクシーがあればいいが、都合よく行かない場合は覚悟を決めて歩くほかない。

こんなとき、「簡単な移動手段があればいいのに」とつくづく思う。

最も簡単な移動手段は自転車だろう。駅の側にレンタルサイクルがあるとラッキーなのだが、必ずあるとは限らない。電車に自転車を持ち込むのは可能だが、解体し専用の袋に収納して持ち込む必要がある。
折りたたみ式自転車を購入して、試しにトライしたことはあるが、折りたたみに時間がかかるし重たいし。とても実用的ではないと悟った。

そのような課題を解決する方法のひとつが、「超小型モビリティ」という新しい交通手段だ。

超小型モビリティが街を活性化させる

「COVID-19によって、未来に10年は進んだ」とよく言われる。

国土交通省は2020年9月1日、量産用超小型モビリティが一般公道を自由に走行できる環境を整備するため、道路運送車両法施行規則などを一部改正すると発表した。

超小型モビリティとは、自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となる1~2人乗り程度の車両をいう。省エネルギーを図ると共に、高齢者を含むあらゆる世代に交通手段を提供し、生活・移動の質の向上を目指すのが目的だ。

超小型モビリティには例えば、超小型EVや歩行領域における立ち乗り型などがある。現在ではさまざまな企業がこの超小型モビリティに取り組んでいる。

長距離の移動ではなく、市街地や工業地域、中山間地、郊外住宅地といった特定の地域内での移動手段として想定されており、特に観光地利用においてメリットがあるとされている。

確かに、京都や奈良といった大都市の観光地なら移動に不便を感じることはあまりない。が、ローカルな観光地では駅から遠く、バスも1時間に数本しか走っていないことも多々ある。

例えば、新1万円札の顔となる渋沢栄一が生まれた埼玉県深谷市にある「渋沢栄一記念館」へ取材に行ったことがあるが、最寄りの深谷駅から歩くと1時間はかかる。タクシーでも15分という距離。
とても歩けないからタクシーを飛ばしたが、そこから栄一が生まれた「中の家」まで移動しようとしたら徒歩で10分もかかってしまった。さらに栄一が学問を学ぶために通ったという、後に富岡製糸場の初代場長となる尾高惇忠の生家までは行くとなると徒歩20分。このことを聞いたときは「ムリ」と思って挫折。中の家からタクシーを呼び、尾高惇忠の生家の前を通って深谷駅に戻った。

渋沢栄一記念館を訪れる観光客は近郊の人が多く、自動車で来る人がほとんどらしい。渋沢栄一記念館や中の家には広い駐車場があるから長い時間の見学も可能だが、尾高惇忠生家に駐車場はない。観光客はゆっくり見ることは叶わない。こんなとき、超小型モビリティがあると、とても便利だ。

これまでは一般公道を走れなかったが、規則が一部改定されたことで今後、普及が加速するだろう。近い将来、観光地を訪れた人はそこから超小型モビリティをシェアリングして、自由に移動できるようになると考えられる。

徒歩で30分かかっていたところが15分でラクに着けたらその分、余裕ができる。
「ちょっとお土産を買いにあそこまで行こう」とか「少し離れたカフェに寄ろう」と、時間を理由に諦めていたこともできるようになる。地元の経済にもメリットが生まれるはずだ。

加速する電動キックスケーター

イメージする超小型モビリティとは少し違うかもしれないが、最近、流行っている簡単な移動手段に電動キックスケーターがある。

元々は、スケードボードにハンドルを付けたキックスケーターという、地面を足で蹴って進む、子ども向けの乗り物だった。1990年代後期、小型折り畳みスクーターがスイスで開発され、1999年頃、日本に入ってくると手軽な移動手段として都市部の若者に大流行した。

しかし、非常識な利用者や事故も多いことから公道での使用は禁止。今ではほぼ見ない。その次に現れたのが、電動キックスケーターだ。

法令上、原動機付自転車(オートバイ)または自動車扱いとなっている。そのため、運転免許の取得義務(原付免許または上位免許)と、運転免許証の携帯義務があり、その他、ナンバープレートやヘルメットの着用など、オートバイと同じ義務が課せられている。
オートバイと違って折りたたむことが可能なタイプもあるので、電車にも持ち込めるのが嬉しい。もちろん、専用の袋に入れなければならないが、折りたたみ式の自転車より扱いはラクだ。

家から電動キックスケーターを持って電車に乗り込む。最寄り駅に降りたら、そこからこれの出番というわけ。きっと地方での取材もラクになる。よし、免許を取ろう!

2021年7月27日にREPORT OCEANが発表したレポートでは、電動キックスケーターの世界市場は、2020年に21億ドル、2028年には45億2000万ドルに達すると予測している。日本でもシェアリング事業を展開する企業が増えてきた。

それらに伴い、安全に配慮した決まりも強化されている。利用者は今後、増加する見込みだ。

超小型モビリティが走り回るサスティナブルな未来都市

それを裏付けするように、電動キックスケーターや1~2人乗りのコミューターといった超小型モビリティの試験導入が、さまざまな地域で進んでいる。

こうした乗り物は、未来都市で活躍するのが最もふさわしいように思う。

未来都市=スマートシティにさまざまな自治体・企業が取り組んでいる。北海道や福島県、東京都、神奈川県、埼玉県、福岡県などで先進的な事例が進行中だ。

そのなかで清水建設が進めているのが「豊洲スマートシティ」。

新交通ゆりかもめ豊洲駅から、豊洲市場のある市場前駅のエリアで展開されているプロジェクト。住民やワーカー、来街者など、多彩なステークホルダーが、成長途上にある豊洲エリアにおいて、多様な施設・個人が共存・共栄する「ミクストユース型未来都市」の実現を目指している。

こうした新しい都市では、自動で動く搬送ロボットやお掃除ロボットなどのサービスロボット、自動運転のモビリティ同士が連携して稼働するシステムの開発が進んでいるという。さまざまな人や乗り物が、自由に行き交う都市では、身体の不自由な人も高齢者も、超小型モビリティで移動するようになるだろう。身体に負担が少ない分、自由に街を楽しめるようになる。

スマートシティが当たり前となった未来都市では、さらにコンパクトでパーソナルなモビリティが生まれているだろう。

そんな超々小型モビリティはネットでさまざまなモノとつながっていて、効率よく安全に街を行き来できるようになる。しかも、AIが搭載されて、人と会話しながら目的地に移動する。途中でカフェに入るのもモビリティに乗ったまま。人がコーヒーを飲んでいるとき、自分のモビリティも充電という形で一緒にひと息つく。

まるで相棒のようにモビリティが人に寄り添い、人々の生活をサポートする。そんな未来が訪れるのも、さほど遠くはないように思える。

大橋 博之
ライター SFプロトタイピング フューチャリスト