2018.06.27

先端技術探訪

ドローンが守る建設現場の未来~空中で何をしているのか?

ドローンが守る建設現場の未来~空中で何をしているのか?

数年以内に到来すると噂されている「ドローン前提社会」。物流、建設、防犯、検査、農業などの分野で実用化が始まっているドローンは、今後数年での急成長が確実視されています。成長著しいドローンは、一体空中で何をしていて、日本の産業へどういった影響を与えるのでしょうか。

空撮だけではない!ドローン活用の本命とは?

ドローンといえば真っ先に思い浮かぶのが「空撮」ではないでしょうか。人間がフレキシブルに行動できない地上高数メートルから150メートルの間を、自在に動き回るドローン。ドローンのみが撮影できる風景は、確かに存在します。例えば、新築物件のPR用動画作成や太陽光パネルの宣伝用動画撮影などです。

また、物流分野でもドローンに対する期待は大きく、国土交通省では早ければ2018年中にドローンを使った荷物配送を、実用化にこぎつけようとしています。実際に楽天株式会社では、一般消費者向けの配送サービス「そら楽」を2016年にリリース。ゴルフ場や南相馬市への配送などを皮切りに、完全自律飛行ドローンによる物流サービスを拡大予定です。

しかし、ドローン活用の本命は他にあります。それは建設・インフラ分野です。潜在市場規模14兆円ともいわれる産業ドローンの中でも、とくに成長が期待されている分野です。長寿命化という使命を負う建設・インフラ分野では、点検や修理などを担う人手、機材、コストが不足しがちという課題を抱えており、課題解決の活路をドローンに見出しています。さらに、工程の進捗把握や適切な資材量の確保にも役立つとされており、国内外でさまざまな取り組みが進んでいます。

建設分野におけるドローンのインパクト

世界の建設市場は2030年までに15.5兆ドル(日本円で約1,700兆円、2018年5月時点)に達すると見られており、依然として成長を続ける超巨大市場です。しかし、それだけに大きな無駄を含んでいるとも考えられています。

英国Green Building Councilによれば、建設資材の調達・管理ミスによって、実に資材の15%が無駄となり、廃棄されているという報告がなされています。さらに米国建築家協会の試算では、米国全体の固形廃棄物のうち、その25%~40%は建設関連廃材だという結果が出ているのです。ドローンによる進捗管理と、そこから導き出されたデータをもとに資材を調達できれば、大量の資材を節約できるでしょう。これは1,700兆円を超える超巨大市場の中で、大きなインパクトになることは間違いありません。

AR+ドローンがもたらす新たな付加価値

また、ドローンがもたらすインパクトはコスト面だけに限りません。建築物の可視化にドローンを活用できれば、人間の肉眼では確認できない部分のリスクを見出し、作業の安全性や効率を高めることができます。

例えば清水建設では、AR技術を用いて地下に埋蔵されているガス管や水道管を可視化するシステムの実用化を進めています。これとドローンを組み合わせれば、空中から広範囲な埋設物を事前に察知し、掘削時の意図しない損傷や事故を防ぐことができるでしょう。実際に八ッ場ダム建設工事では、ドローンで撮影した3D画像と岩盤のスケッチを合成してダム基礎岩盤情報の高度化を図っています。

画像認識技術の発達は、人間が肉眼で認識できない現実へのアクセスを可能にしました。いわば現実の拡張(AR)です。さらにドローンがこの拡張現実に肉付けを行うデータを収集し、その精度を高めます。このようにARとドローンは親和性が高く、人間が立ち入ることができない拡張現実の世界を認識できるという特徴があります。

ドローンとAR(拡張現実)の組み合わせがもたらす、新たな革命といえそうです。

AR+ドローンを扱う人材の重要性

しかし、ここでひとつの課題が浮かび上がります。それは、ARとドローンに関する知識・スキルを持った人材が少ないということです。一説では、14万人もの人手不足が予測されているドローン人材。ただでさえ人手不足にあえぐ建設・インフラ業界が、ARとドローンを扱う人材をどう確保するかが、今後の焦点といえそうです。言い換えれば、これらの育成・調達に成功した企業が、今後の建設・インフラ業界をけん引するとも考えられます。

地上高150メートル以下からARとドローンがもたらす巨大な「果実」。これをいち早く獲得する鍵は、企業独自の人材育成にかかっているのかもしれません。

佐京 正則
IT業界にてエンジニアやERPコンサルタントとして勤務後、独立。主にITトレンドやビジネス、不動産投資などの記事を得意としている。