2020.10.12

先端技術探訪

空気を変えよう、入れ換えよう

空気を変えよう、入れ換えよう

新型コロナウイルスの猛威は未だに続いています。非常事態宣言が解除されて以降の感染者増加は第二波と目され、気温が下がるこれからの時期にかけては次なる第三波の襲来も懸念されています。ですが、さまざまなパンデミックを乗り越えてきた人類の叡智はそんなものに負けるはずがありません。今回は感染拡大防止につながるさまざまなトピックをご紹介しましょう。鬱々とした空気がガラリと変わるような内容でお届けします。

マイクロ飛沫による空気感染に対策

新型コロナウイルスの感染防止には、密閉・密集・密接の、いわゆる「3つの密」の回避が不可欠です。これは2020年3月に専門家会議の提言を受けるかたちで、厚生労働省クラスター対策班が集団感染を防ぐための行動指針として公表したものに由来します。

この3密の中でも「密閉」を避ける有効策として、換気の重要性がクローズアップされています。というのも、密閉された空間に感染者がいると、空気中のウイルス濃度が高くなることがあり、それがクラスター=集団感染の原因となる可能性が指摘されているから※1。新型コロナウイルスの感染経路は接触感染と飛沫感染が有力で、空気感染はしないと考えられていましたが、感染者の呼気などの空気中を漂う微細な飛沫の中でもウイルスが一定程度、生存することが明らかになりました。そこで空気感染に近い“マイクロ飛沫”という感染経路を想定し、対策を講じる必要が出てきたというわけです。もちろん、密閉だけがクラスター発生の原因とは断言できませんが、要因のひとつであることは間違いないでしょう。

この密閉空間のマイクロ飛沫感染を避けるためには、適切な換気が欠かせません。換気といえば建築的に解決できる課題であり、なおかつ既存の施設でも対策することが可能。感染拡大防止と経済活動を並走させるためにも、手軽に実施可能なソリューションといえるかもしれません。

出典:世界保健機関(WHO)

換気とは何か、効果的な方法とは

ここで、あらためて換気とはどのようなものかを見直してみましょう。換気は室内の空気と外気を交換することを指します。その目的は外の空気を室内に取り⼊れることで、室内の空気中の汚染物質を排出・希釈すること※2。ウイルス=空気中の汚染物質と考えれば、換気がクラスター対策の一例に挙げられるのもうなずける話です。

換気方法はビルや施設の場合は空調設備を用いた機械換気が代表的です。ここで注意したいのは運転方法。近年は省エネが重視されており、冷房効率が落ちないように室内循環の設定で運転するケースも多いようですが、この場合は実は換気効果がないということは知っておいたほうがいいでしょう。いくら風が来ているからといっても、それは室内の空気を撹拌しているだけ。むしろウイルスなどの汚染物質を広く拡散させることになりかねません。換気という面から見れば、外気導入を増やして運転することが大事です。

もうひとつの換気方法は、おなじみの窓を開ける。この場合、2方向の窓を開けて空気の入口と出口を設けると、空気の流れができて速やかに換気ができるようになります。目安は1時間に5〜10分程度。2時間おきに10分よりも、1時間に5分ずつ窓を開けると効果は高いとのことです。窓がひとつしかない場合には、扇風機やサーキュレーターを2台用い、1台を窓のそばに外に向け、もう1台を部屋の対角線の位置から空気をかき混ぜるように設置すると、空気の流れができるため効率的に換気できます。ポイントは空気の流れ、つまり風を使うということです。

出典:⼀般社団法⼈ ⽇本建築学会と公益社団法⼈ 空気調和・衛⽣⼯学会

風を操る独自技術

ところで、施設の感染防止においては医療分野がトップランナーであることはいうまでもないでしょう。患者さんの生命を守り、最前線で感染症に対峙する医療従事者を支援するために、最先端の技術が惜しみなく投入されています。

清水建設も病院の設計・建築など、医療系の事例は豊富です。その代表例といえるのが、独自のカセット型空調ユニットの採用により手軽に無菌手術室が実現できる「クリーンコンポ」。さらにこのほど、クリーンコンポを進化させた「クリーンコンポ デュアルエアー®」も開発しました。その名のとおり2系統の空調で、空気の流れを作り出すことで、2つの温度帯の実現と空気清浄度の回復性能も向上させた画期的なソリューションです。これも気流の原理を応用し、自由自在に風を操る技術。これまで手術のための機能が優先されるあまり、検討されることのなかった快適さという観点から手術室の環境を一変させることで、医療分野に新風を吹き込んでいます。

このように風を使って空気をコントロールすることに意識的になれば、感染拡大の防止にもつながり、新型コロナを克服する日も遠いものではなくなるはず。その日に向けて、一人ひとりができることを積み重ねていきたいものです。

野崎 優彦
さまざまな企業のコミュニケーション活動をお手伝いしているコピーライター。株式会社モーク・ツー所属。