2022.04.11

先端技術探訪

ゼネコンがビルを作らなくなる日

ゼネコンがビルを作らなくなる日

「ゲームチェンジャー」という言葉があります。そもそもはスポーツの世界で使われていた言葉です。このほど清水建設が開発した建物OS「DX-Core」が、ゼネコンにとってビジネスモデルを変えてしまうゲームチェンジャーとなるかもしれないーーそんなお話をお届けします。

近年最大のゲームチェンジャーとは

ゲームチェンジャーとは試合の途中で登場し、試合の流れをガラリと変えてしまう選手を指します。野球なら代打の切り札、サッカーではスーパーサブとも呼ばれますね。そこから転じて、それまでの状況を大きく一変させてしまうような人やモノ、出来事などもゲームチェンジャーと呼ばれます。歴史上の4大発明とされる「紙」「印刷」「火薬」「羅針盤」はその際たるもの。では、近年、私たちの生活や仕事、社会のあり方を含め、根底から変えてしまったゲームチェンジャーといえば、パソコンが挙げられるでしょう。

たとえばビジネスの分野では、それまでは人手と紙と筆記具で膨大な時間をかけて処理していた事務作業のもろもろは、すべてパソコンに代替されて劇的に効率化されました。文書を作る、絵を描く、音楽を作る、それらを流通させる、いずれもパソコンは欠かせないもの。いやいやスマホの方が革命的でしょ?という意見もあろうかと思いますが、スマホはもはや極限までコンパクトになったパソコンそのものです。

では、なぜパソコン(スマホ含む)がゲームチェンジャーたり得たのかといえば、アプリを切り替えればさまざまな用途に使える汎用性があるから。スマホを例にすれば、カメラにも時計にもゲーム機にもなるし、地図にもカーナビにもなる。アプリの種類だけ多機能に使えるからこそ、私たちの生活や仕事を一変させたのでしょう。この汎用性の背景にはOSの存在があります。

建物にもOSがインストールされる時代が来た

ここであらためてOSとはなにかを整理してみましょう。OSとは「Operating System=オペレーティングシステム」のこと。うんとシンプルに説明するなら、使う人とハードウェアとアプリを仲立ちする役割を果たしています。多様なアプリの多様な役割を、同じような動作で操作できたり、アプリ同士が連携することでより便利に快適に使えるようになっているのはOSが仲介しているからです。

そして今や、クルマや建物にもOSが搭載される時代となりました。もはやコンピュータの塊といっても過言ではなくなったクルマはともかく、建物にOSとはどのようなものなのかといえば、建物内のさまざまな設備を連携させるための土台と説明することができます。

たとえば、最近ビルの中では掃除をしたり届け物をするロボットが動いています。彼らがより自由に効率よく動けるようにするために、自動ドアやエレベータなどとデータをやりとりする必要があります。ところがこうした設備は往々にしてメーカーやベンダーや異なり、それらを制御する手法が異なるのです。清水建設が開発した建物OS「DX-Core」は異なるメーカー・ベンダーの設備同士をつなぐAPIをたくさん実装しています。APIとはアプリケーション・プログラミング・インターフェースの略語で、各設備のデータのやりとりを同時通訳するものと考えればいいでしょう。このAPIが稼働するプラットフォームが建物OSであり、インストールすれば建物設備の機能・サービスの追加や更新が、スマホにアプリを入れるように手軽にできるようになるというわけです。

ゼネコンがビルを作らなくなる日

将来的に建物にOSが実装されることが当たり前になったとしたら、OSを通じて建物同士でデータをやりとりすることもきっと容易になるはず。するとその先には、街区OS、都市OS、自治体OSというコンセプトの実現も視野に入ってきます。もし自治体OSが実現したなら、これまで各市町村ごとにバラバラだった役所の手続きが統一されたり、都市同士でエネルギーや医療資源などを融通し合ったりというような連携も夢物語ではなくなるでしょう。

そして、建物OSは既存のビルにもインストールが可能。むしろ、古いビルに新しい設備やサービスを適用することで、ビルの寿命を飛躍的に延ばすことにもおおいに貢献しそうです。ゼネコンにしてみれば新築の案件が減ってしまうのは大問題。ですが、建物OSに関連するビジネスが拡大して、会社を支える事業にまで成長したとしたら…。ゼネコンから生まれた建物OSはゼネコンのビジネスモデルを大転換する、まさしくゲームチェンジャーになるのかもしれません。

野崎 優彦
さまざまな企業のコミュニケーション活動をお手伝いしているコピーライター。株式会社モーク・ツー所属。