2020.09.28

開発者ストーリー

自動運転車やロボットが自由に動き回る建物の未来を目指して〜後編。

ゼネコンでありながら自動運転車に取り組むプロジェクトチームのチャレンジ。前編ではプロジェクトの起動から、最初の成果となった技術研究所構内の実証実験をご紹介しました。続く後編では、その後の展開から2020年現在までの進捗と成果、さらにチームメンバーが描く将来のビジョンについてご紹介しましょう。

清水建設株式会社 技術研究所 未来創造技術センター デジタルXグループ 白石 理人(左)、松本 隆史(中央)、氷室 福(右、旧氏名:ファム フック)
清水建設株式会社 技術研究所 未来創造技術センター デジタルXグループ 白石 理人(左)、松本 隆史(中央)、氷室 福(右、旧氏名:ファム フック)

一般のお客様への公開に向けて

清水建設技術研究所構内における自動運転車走行の実証実験を実現させたチームが次に取り組んだのは、もっと広いエリアを舞台とした街区内移動サービスの実現です。新たな機能として自動運転車の配車リクエストと歩行者ナビゲーションシステムを組み合わせ、よりユーザーフレンドリーで現実性を持たせた機能を組み込んだソリューションを目指した内容です。

フック

「利用者がスマホから専用アプリで自動運転車を予約します。このリクエストを受けた自動運転車が指定の乗車場所まで迎えに行き、同時にアプリは乗車場所まで利用者をナビします。そして利用者を乗せた自動運転車は目的地まで送迎するというシナリオをベースに開発を進めました」(フック)

ここでも利用者の目線でシナリオを策定し、そこから必要な機能を開発。それらを一連のサービスとして構築していきました。

白石

「その時点の開発の進捗状況を元に、少し背伸びをすれば届きそうなゴールを具体的な目標としてうまく設定できると、チーム全体の方向性が定まり開発が加速していきます。これはおもしろかったですね」(白石)

今回の具体的な目標は、2019年10月19日・20日に行われる地域イベント「新豊洲SPORT × ART FESTIVAL 2019」の得られた機会で実証実験を兼ねたデモを披露することでした。

一般の方に使っていただく以上、ミスや不具合は許されないどころか、プロジェクト自体の存続すら左右しかねません。チームは初めて他部門メンバーを加えて週末にテストを重ねるなど、技術の精度を高めるとともに現地での準備や調整を進めてギリギリまで準備し、イベント当日を迎えました。そしてイベントにおけるデモでは、2日間で多くのお客様に自動運転車の乗車体験をしていただくことができました。

豊洲イベントでのデモ。スマホアプリによる自動運転車の配車、乗車場所へのナビゲーションなどを実装した。<br>(共同研究先である株式会社ティアフォーの協力の下に撮影)
豊洲イベントでのデモ。スマホアプリによる自動運転車の配車、乗車場所へのナビゲーションなどを実装した。
(共同研究先である株式会社ティアフォーの協力の下に撮影)

建物内のロボットも対象に

これまで自動運転車をメインテーマとしてきたプロジェクトは、2020年より新たなフェーズに入ります。それは建物内のロボットの移動を対象とすること。具体的には、さまざまなサービスを提供する複数のロボットの移動と建物内の施設、たとえばエレベーターや自動ドアの制御システムを連携させるというものです。

来客案内ロボットとフック。ロボットは来客があれば玄関まで迎えに行き、会議室などの目的地まで案内する
来客案内ロボットとフック。ロボットは来客があれば玄関まで迎えに行き、会議室などの目的地まで案内する。

「ここでのチャレンジは、異なるメーカーのロボットをAPIを介して自動運転プラットフォームに接続し連携させるということでした。異なるメーカーのロボットや自動運転車はそれぞれ独自の規格で制御されているので共存が難しい。そこをクリアするのが私達の技術開発の真髄といえるでしょう」(フック)

2020年6月に発表された最新のデモ内容を見てみましょう。技術研究所内を2種類のロボットが稼働しています。1台は社員のリクエストに応じて資料の運搬をしています。もう1台は来客を案内します。どちらも自動運転プラットフォームを介してエレベーター管理システムと連携し、建物の上下階をエレベーターで自由に移動しながら同時並行でサービスを提供します。さらに技術研究所のBIMデータを元に自分が建物内のどこにいるのかを把握する機能も実装しました。2台の進路が交錯している場合も、ぶつかったりしないように片方が道を譲りながら目的地まで移動することができるのです。

動画:書籍配送サービスと来客案内サービスの実証映像(5:11)

奇跡のプロジェクト

このプロジェクトはさまざまな逆境を乗り越えつつ、2年経ちようやく成果を出し始めます。

「この分野は将来的に大きなビジネスになりそうな予兆はあっても、現時点では見えないことのほうが多い。それにも関わらず、当初からそれなりに大きな予算が付き、多くのスタッフが関わり、しかも目覚ましいスピードが開発が進んでいます。これまでに前例のないことです」と白石は話します。

フック、白石、松本

一方で、順風満帆というわけではなかったと振り返るフックは、このソリューションの意義を次のように考えています。

「かつての馬車が自動車に取って代わると、インフラも自動車に合わせたものに大きく変化しました。同じことが自動運転車やロボットが普及するときにも起きるでしょう。その意味で、この分野には非常に大きな将来性があると同時に、ここで乗り遅れたら二度とプレイヤーとして浮上できない、そんな緊張感を持って開発に取り組んでいます」(フック)

また松本も次のように話します。

白石

「私たちは未来創造技術センターということで、15年、20年先を見据えて研究開発に取り組んでいますが、このプロジェクトに関しては、私の感覚では決して未来のことではなく、今、必要とされていることに取り組んでいるつもりです。情報系の分野でのデザインが発展してきていますが、大きな構造物の設計や、その中の体験を扱うこととの融合はまだまだ手探り。建築の分野にはそこにノウハウがあり、それが私たちの強みになっていると思います」(松本)

最後に白石は次のように締めくくりました。

「この分野では個別のロボットや自動運転の技術そのものにスポットが当たりがちですが、人が生活する空間である建物や街区の中で、ロボットや自動運転車をどのように使い、共生するかを考えることも同じように重要で、社会に与えるインパクトも大きいと思います。このプロジェクトはそれに真正面から取り組んでいるわけで、私自身もこの先を楽しみにしています」(白石)

さまざまな自動運転車やロボットが協調し、自由に動き回りながら人の役に立つ、そんなアイデアはなんとも素敵な未来を具現化してくれそうです。