気候変動を食い止めるには、CO2の排出を減らすだけでなく、すでに大気中にあるCO2を「取り除く」ことが必要です。清水建設は、SUSMICSシリーズやDACコートの研究開発を通じて、大気中のCO2を取り除く技術を育ててきました。そして今、その舞台を海へと広げています。
(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同開発してきた海水中CO2分離回収技術「DOC(Direct Ocean Capture)」は、可搬型実証装置が完成し、先端技術の社会実装を支援する東京ベイeSGプロジェクトにも採択され、いよいよ実海域での試験に踏み出します。本特集では、CO2除去が求められる背景や、これまで開発してきたCO2吸収・除去技術、新たに加わったDOC、そして今後の展開を紹介します。
CO2回収の必要性――「減らす」だけでは足りない
近年、猛暑や豪雨など気候変動の影響が世界各地で顕在化し、日本政府は2050年までのカーボンニュートラル実現を掲げています。カーボンニュートラルとは、排出した温室効果ガスを、森林による吸収や技術を使った除去などで差し引き、全体として実質ゼロにすることです。
省エネや再生可能エネルギーによって排出量を減らすことは重要ですが、産業や暮らしからの排出を完全になくすことは簡単ではありません。そのため、森林の成長や技術の活用などによって、大気中のCO2を実際に取り除き、長期間にわたって蓄える「CDR(Carbon Dioxide Removal:二酸化炭素除去)」が重要となります。
CDRには、森林の保全や木材利用、コンクリートへのCO2固定、大気中CO2を直接回収するDAC、そして海洋の力を借りる海洋CDRなど、さまざまな手法があります。建設業は、セメント製造をはじめ多くのCO2を排出してきた産業である一方、建設材料や構造物、インフラそのものを「CO2の吸収源」に変える可能性も持っています。こうした発想のもと、清水建設はCO2排出を抑えるだけでなく、吸収・固定につなげる技術開発を進めてきました。
シミズのCO2吸収・除去技術―― 大気も海も
大気中のCO2を吸収・除去する最も身近な仕組みは、森林です。木を植え、育て、伐採して使い、また植える。この循環の中で、樹木は成長の過程でCO2を吸収し、炭素成分として蓄えていきます。
その循環に関わる取り組みの一つが、群馬県川場村で進める「シミズめぐりの森」プロジェクトです。村有地3haを植林地として借り受け、最大50年間にわたって自社事業で利用する木材を産出する森林を育てています。木材を消費する需要家側が森林資源の再生に主体的に取り組み、循環型の木材活用を推進する取り組みです。
SUSMICSシリーズは、森林の力を建設材料に取り込む技術です。「SUSMICS-C」は、製造時に大量のCO2を排出するセメントを用いたコンクリートを「排出する側」から「吸収・固定する側」へ変えるといった発想から生まれた技術です。木質バイオマスを炭化させたバイオ炭を混ぜ込み、樹木が蓄えた炭素をコンクリート内部に長期間貯留します。すでに複数の土木現場及び建築現場に適用され、仮設非構造物から本設構造物まで広く活用されています。
そこに加わったのが、大気中のCO2を直接回収するDAC(Direct Air Capture)の技術です。北海道大学と共同開発した「DACコート」は、CO2吸収性能の高いアミン化合物をコンクリート表面に含浸させることで、大気中のCO2を炭酸カルシウム(CaCO3)として吸収・固定するプロセスを促進します。同時に、アミン化合物の防食作用により鉄筋の腐食を防ぎ、鉄筋コンクリート構造物の長寿命化に貢献します。塗布するだけで施工できるため、新築建物だけでなく、すでに建っている建物や構造物にも適用できるのが特長です。2026年3月には、東京都品川区の既存庁舎の外壁に初めて適用され、全国に数多くある既存コンクリート構造物をCO2吸収源に変える第一歩を踏み出しました。
一方、DOC(Direct Ocean Capture)は、CO2を「空気」からではなく「海水」から取り出します。海洋はこれまで人類が排出したCO2の約4分の1を吸収してきた巨大な貯蔵庫で、同じ体積で比べると海水には大気の約120倍のCO2が溶け込んでいます。海面を通じてCO2は絶えず海と大気の間を移動しているため、海水中のCO2を回収し、貯留や固定することができれば、海は大気から新たにCO2を吸収します。つまりDOCは、海を介して大気中のCO2を除去する技術であり、進行する海洋酸性化を緩和する可能性も持っています。
CO2濃度の薄い大気を対象とする植林やSUSMICSシリーズ、DACコートに対し、CO2濃度の高い海水を相手にするDOCは、より効率的な回収が期待できます。ただしこれらの技術は競合するものではありません。DACコートは全国に既にあるコンクリート構造物を、DOCは発電所や淡水化施設など既に海水を取水しているインフラを、それぞれ「CO2吸収源」に変える技術です。対象と手法を広げながら、CO2吸収・除去技術は新たな段階へと進んでいます。
今後の展開―― 開発・実証・社会実装
CO2回収技術は、研究室での開発、実環境での実証、そして社会への展開という段階を経て、初めて気候変動対策としての実力を発揮します。DOCはいま、開発から実証へと歩みを進める段階にあります。
DOCは、完成した可搬型実証装置を各地の海域・施設に持ち込み、温度や塩分といった水質の異なる実海水でのデータを蓄積します。これは、大規模な実証プラントを建設する前に、低コストかつ柔軟に技術を磨く段階です。この実海域での実証は、「東京ベイeSGプロジェクト」に採択され、その後押しを受けて進めていきます。そこで得た知見をもとに、大規模化に向けた技術課題の整理と性能向上を進め、社会実装への道筋を描きます。
建設会社が担ってきた「つくる」「守る」という役割に「CO2を取り除く」を加える。清水建設は、植林やSUSMICSシリーズ、DACコートといったこれまでのCO2吸収・除去技術に加え、海水からCO2を取り出すDOCの開発・実証を進め、カーボンニュートラルと海洋環境の保全への貢献を目指します。
