大気中のCO2吸収・固定化※を促進するDACコートは、コンクリート表面に塗るだけで、鉄筋を保護しながらCO2の自然な吸収・固定化のプロセスを促進し、コンクリート構造物を新たな「CO2吸収源」へと変える画期的な技術です。
ここでは、その技術概要から社会実装に向けた実証試験まで、DACコートの全貌を深く掘り下げてご紹介します。
二酸化炭素を自然または人工的に閉じ込めて大気中に放出しないようにすること
インデックス
背景
セメント製造に伴うCO2の排出量は、国内全体のCO2総排出量の約3〜4% に相当し、世界では6.2%を占めています。建設業界において、このCO2排出量の削減は2050年カーボンニュートラル達成に向けた喫緊の課題です。こうした中、コンクリートにCO2を吸収・固定させる方法への関心が高まっています。
コンクリートはアルカリ性の材料であり、大気中のCO2を自然に吸収する性質をもともと持っています。この現象は「中性化」と呼ばれ、一般には内部の鉄筋腐食を招く劣化要因として認識されており、これまでコンクリート構造物ではその進行を抑えることが重視されてきました。一方で、CO2吸収・固定化という観点では、中性化を適切に促進することで、より多くのCO2をコンクリート内部に吸収・固定できる可能性があります。
DACコートは、このように相反する課題、すなわちCO2の吸収・固定化を促進しつつ、同時に鉄筋の腐食を防ぐ技術として、北海道大学との産学連携によって開発されました。
DACコートの特長
1.大気中のCO2の吸収・固定化を促進
DAC(Direct Air Capture)とは、大気中の二酸化炭素を、化学的な吸収・吸着剤を用いて分離・回収する技術です。DACコートの鍵となるのは、主成分の「アミン化合物」です。CO2吸収性能の高いアミン化合物を含浸剤としてコンクリート表層に塗布・含浸させることで、大気中のCO2を取り込み、炭酸カルシウムとして固定します。
通常のコンクリートの1m3あたりのCO2固定量は18kgといわれていますが、DACコートを塗布することで、通常の1.5倍以上(27~36kg)のCO2を固定できます。
2.鉄筋の腐食を防ぎ、建物を長寿命化
DACコートに用いるアミン化合物には防食作用があるため、これまでCO2固定化の課題だったコンクリートの中性化による鉄筋の腐食を抑制することができます。
通常、鉄筋周囲のコンクリートが中性化すると、鉄筋は腐食しやすい(腐食速度が大きい)状態になります。一方で、DACコートを使用する場合、コンクリートを介して浸透したアミン化合物が鉄筋表面に吸着し、鉄筋を腐食因子から保護します。そのため、炭酸化が進行しても腐食速度は低い状態が維持されます。また、塩分(NaCl)に対する耐性も向上することが確認できており、DACコートを使うことでCO2の固定化を促進しながら、鉄筋コンクリート構造物の長寿命化の実現が可能です。
3.新設・既設を問わず施工が可能
コンクリート表面に浸透させるだけのシンプルな施工であるため、これから建設される新しい構造物はもちろん、今使われている既存のインフラや建築物にも容易に適用できます。
社会実装に向けた実証試験
事例1:「東京ベイeSGプロジェクト」中央防波堤
DACコートは、東京都が進める「東京ベイeSGプロジェクト」の2023年度先行プロジェクトに採択されました。ベイエリアの中央防波堤に設置したモックアップを利用して、2023年12月から約2年間にわたり実環境における実証実験を行いました。
配合や濃度の異なるDACコートをモックアップに塗り、雨や風、波しぶきなどが降りかかる自然環境の中でCO2の固定量と鉄筋の耐食性などを検証・評価しました。その結果、多種多様なアミン化合物の中から、炭酸化促進効果と防食効果に優れる2種の化合物を抽出することに成功しました。さらに、それぞれを用いたDACコートについて、生態安全性の基準値を満足することを確認できました。これらの結果をふまえ、実用化に向けた具体的な仕様を確定しました。
併せて、建設に特化したCO2排出量の算出システムの開発を手掛ける株式会社GORLEMとともに、社会実装の鍵となる技術導入効果の可視化手法として、DACコート適用後のCO2固定量を建物・構造物・街単位で算出できるシミュレータも開発しました。
右下の棒グラフでは、DACコートによるCO2削減量がオレンジ色で示される
事例2:「東京ベイeSGプロジェクト」品川区第三庁舎
ベイエリアでの実証実験の成果を踏まえ、実建物を対象とした初の試験施工として、2026年3月、品川区第三庁舎のコンクリート外壁面(延べ55m2)に適用しました。今後約3年かけてCO2固定量の経時変化をモニタリングし、効果を実証します。
今後の展望
外部機関に委託した調査によれば、国内にある既存のコンクリート構造物のうち、DACコートを適用できる面積は3億m2にのぼります。そのすべてにDACコートを適用した場合、100万トン以上のCO2吸収・固定が可能と見込まれます。
今後は、品川区役所でのモニタリング結果を蓄積しつつ、全国の自治体や民間企業が保有する既存施設への提案を加速させ、社会全体のカーボンニュートラル実現に貢献していきます。
