2022.02.28

先端技術探訪

ジェネレーティブデザイン×トポロジー最適化の胸アツなミライ

ジェネレーティブデザイン×トポロジー最適化の胸アツなミライ

情報技術の爆発的な発展と普及に伴い、ものづくりに大きな革新が起こり続けています。それは建設業も然り。今回はものづくり革新を推進する代表的な技術である「ジェネレーティブデザイン」「トポロジー最適化」「3Dプリンティング」とそれらが招く(であろう)建設業の未来を見てみましょう。

コンピュータの為せる技

「ジェネレーティブデザイン」とは、設計に求められる条件や要件をベースに、コンピュータに最適な設計・デザインを生成(ジェネレート)させる手法。以前にこのコラムでも紹介した「コンピュテーショナルデザイン」に内包される概念です。設計者が入力するデータはサイズや素材、用途や目的、さらにコストなど多岐にわたりますが、いったんデータが揃ってしまえば、数十種、数百種のデザイン案が生成されます。設計者はその中からベストと考えられる形状を選べばいいのです。

トポロジー(Topology)とはギリシャ語で、位置・場所を意味する「トポ(Topo)」に、学問・言葉を意味する「ロジー(logy)」を組み合わせた言葉。文字どおり、位置の学問として数学の一分野をなすものです。これがなぜものづくりの世界で注目されるのかといえば、ものの軽さと強度のバランスの最適化が図れるから。たとえばクルマのホイールの場合、できるだけ軽くすることと、強度や剛性を確保することの相反する性能が求められます。そこで強度や剛性に影響しない部分を肉抜きしていくのですが、そのような場合にトポロジー最適化の手法が有効になります。

ジェネレーティブデザインもトポロジー最適化も、コンピュータ上の3Dモデルで実行されます。感情も容赦も忖度もないコンピュータの為せる技ですから、人間の既成概念を超えた形状も生成されます。往々にしてそうしたデザインはあまりに複雑過ぎて、一般的な生産方法と相性が悪いという側面もありましたが、これを一気に打破したのが3Dプリンティングの進化です。形状の断面を積層していく3Dプリンティングは、どんなに複雑なものも形成できます。サザエの貝殻を工学的手法で生産するのは、ほぼ不可能ながら3Dプリンティングなら容易です。そして、上記を組み合わせることで、これまでにない画期的な技術が登場しています。

ジェネレーティブデザインの現在位置

たとえば、清水建設が昨年8月に発表した「3次元曲面ガラススクリーン構法」の開発プロジェクトにおいて、3D曲面ガラスを支える支持金物は、ジェネレーティブデザインの手法を用いて設計・デザインされたものです。

未来の遺跡から発掘されたような有機的で複雑な形状は、3Dモデリングソフト上で、ガラスを支持する部分の強度を最大化できる3次元の形状を生成したもの。強度に影響しない範囲で軽量化するために、トポロジー最適化の手法が用いられたことはいうまでもありません。さらに施工時の扱いやすさを確保するために、作業者の手が入るサイズの隙間を意図的に作っています。そのようにして生成され、検討された形状は50パターンを超えたといいます。以前ならば50パターンの中から選抜した3〜4案を実際に試作して比較・検討していたかもしれませんが、そうしたプロセスもコンピュータ上のシミュレーションで完結できるため、実際に3Dプリンタで試作したのは採用された1案だけだったとのこと。ジェネレーティブデザインとトポロジー最適化、3Dプリンティングといったテクノロジーは、開発に要するコストの押し下げにも貢献していました。

建物はより目的に応じた機能を備えるようになる?

上記で紹介したのは建設のごく一部、それも部材の開発に適用されたジェネレーティブデザインの一例ですが、さらに視野を広げ、建物そのものの設計・デザインに適用することも考えられます。建物に求められる要件の一つひとつをパラメータとして読み込ませると、最適な形状の建物のデザインがあっという間に生成され、それを具現化するためのフロアプランから部材の一点一点まで、建設に必要な要素すべてをジェネレーティブデザインで作り出せる日が来るのかもしれません。パラメータとして読み込ませるデータも、立地や面積、建物の用途や目的、収容を想定する人数といった数値化の容易なものから、人が感知している居心地や快適性、周辺環境との親和性、あるいは長期的に見た自然環境への配慮など、未知の分野や解析が進んでいない領域のデータも加わるかもしれません。

一方で、トポロジー最適化は形状に含まれる余裕を最小化することになるので、目的に対する柔軟性は失われていきます。曖昧で複雑なVUCA時代の施設では自由な用途変更や、それに伴う設定条件の見直しが発生することを前提とする必要があり、柔軟性の設計がより大事になってくるとも言えます。

いずれにせよ、この分野は進化発展の余地が広大です。この先、想像を超えるテクノロジーもきっと登場するはず。それらはいずれ、私たちを驚かせてくれる建物や構造物として姿を見せてくれるに違いありません。技術者のみなさん、がんばってください!

野崎 優彦
さまざまな企業のコミュニケーション活動をお手伝いしているコピーライター。株式会社モーク・ツー所属。