2026.09.01

開発者ストーリー

CO2削減とアンモニア放散抑制を実現するコンクリート「SUSMICS®-Ca」

異分野の技術が融合し、新たな価値を生む

コンクリートにCO2を固定する技術と、コンクリートから出る汚染ガスを抑える技術。これまで別個の文脈で語られてきた二つの技術が融合して、国内初、CO2削減とアンモニア放散抑制を同時に実現するコンクリート「SUSMICS-Ca」が生まれました。

美術館の展示品を守る役割から、極めて高い清浄度が求められる半導体製造施設まで、活躍の可能性を広げるこの技術は、どのようにして生まれたのか。開発を牽引したメンバーに聞きました。

左から、技術研究所 建設基盤技術センター 資源循環グループ グループ長 小島 啓輔、矢野 慧一、社会システム技術センター インフラ技術グループ 山本 伸也、カーボンニュートラル技術センター 省エネルギー技術グループ 主任研究員 冨田 賢吾
左から、技術研究所 建設基盤技術センター 資源循環グループ グループ長 小島 啓輔、矢野 慧一、社会システム技術センター インフラ技術グループ 山本 伸也、カーボンニュートラル技術センター 省エネルギー技術グループ 主任研究員 冨田 賢吾

技術研究所ならではの、分野をまたぐ化学反応

  • ――

    SUSMICS-Cとアンモニア放散抑制はどのように融合したのでしょうか。

  • <矢野>

    実は、「雑談」から始まったんです。技術研究所内では、環境浄化や材料工学、室内空気質といった、異なる分野のメンバーが日常的に顔を合わせます。

    「バイオ炭って表面に細かな穴がいっぱいあるよね」

    「アンモニア吸着に使えるかも」

    という何気ない会話が、開発の大きなきっかけになりました。

矢野は化学生命工学、冨田は薬理学を専門とし、2022年にはコンクリート打設後の空気質管理におけるアンモニア低減対策によって、美術館の早期供用に貢献した経験がある。一方、同じ時期に、ラクツムによるコンクリート3Dプリンティングを専門とする山本は、バイオ炭コンクリート「SUSMICS-C」を開発していた。

  • ――

    この二つの技術を組み合わせたらどうなるか、という気づきがあったということですね。

  • <山本>

    SUSMICS-Cは、バイオ炭を混ぜることでCO2をコンクリートに固定します。私たちは主に材料の観点から、CO2固定量を増やしつつ強度や施工性を確保する開発を進めていました。一方、矢野さん・冨田さんは空気質の観点から、普通コンクリートが放散するアンモニアガスの低減対策に取り組んでいました。

    それぞれのチームのやりたいことが、実は「SUSMICS-Cという同じ材料の中で実現できる」と気づいたのがスタート地点です。

  • ――

    そうした気づきを今回の技術開発まで結びつけたものは何だったと思いますか。

SUSMICS-Cとバイオ炭
SUSMICS-Cとバイオ炭
  • <冨田>

    山本さんたちが培った「コンクリートにバイオ炭を均一に混ぜる配合技術」がなければ、バイオ炭にアンモニアを吸着させるという発想があっても実現できませんでした。

  • <矢野>

    冨田さんのチームは、「空気中のごく微量の汚染ガスを測定・分析する高い技術」を持っており、コンクリート由来の微量アンモニアガスも高精度に評価できます。この知見を活かして独自開発したケミカルフィルターが、目に見えないアンモニア放散抑制効果の可視化に役立ちました。

アンモニア放散抑制効果の可視化デモンストレーション
アンモニア放散抑制効果の可視化デモンストレーション

普通コンクリートとSUSMICS-Caを入れた密閉容器(デシケーター)に空気を供給し、コンクリート試料から放散されるアンモニアの違いを、空気中のアンモニア濃度を測定する検知管で比較。検知管の変色によって、SUSMICS-Caによるアンモニア放散抑制効果を可視化した。

写真左は、冨田が開発に携わったVOC低減型空気清浄機にアンモニア対策用ケミカルフィルターを搭載したもの。室内空気中にもともと含まれるアンモニアの影響を抑え、試料から放散されたアンモニアを検出しやすくする。

バイオ炭コンクリートSUSMICS-Cは、小島が中心となってSUSMICSシリーズとして展開し、これまでにアスファルト(A)、地盤改良(G)、ソイルセメント(S)へと適用範囲を広げてきた。

SUSMICSシリーズ

  • ――

    シリーズ最新となるSUSMICS-Caは、早くも実際の建物(泉美術館)への適用が決まっています。その背景を教えてください。

  • <小島>

    2025年5月、SUSMICS-Cは一般財団法人日本建築総合試験所の建設材料技術性能証明を取得し、建築の構造材向けに特化したSUSMICS-Cを「SUSMICS-Cs」として展開しました。このことが、今回SUSMICS-Caが美術館へ適用される道筋をつけた、決定的なステップだったと捉えています。

SUSMICS-Csで構築した東京木工場の門塀
SUSMICS-Csで構築した東京木工場の門塀

美術館・博物館から半導体製造施設へ 適用によるメリットとは

  • ――

    美術館での実績をふまえ、極めて高い清浄度が求められる半導体製造施設などへの展開も期待されています。もし将来的に適用が実現すれば、どのような課題解決につながるでしょうか?

  • <矢野>

    アンモニアの影響として、美術館や博物館では「展示収蔵品への影響(変色)」が主でしたが、半導体製造施設では「製造品質(回路形成の不具合)」に直結します。美術館や博物館よりも厳しい濃度管理※1が求められる半導体製造において、コンクリートという巨大な躯体が常にアンモニアを放散し続けることは、建設側としても最大の課題でした。

  • <冨田>

    従来は化学物質を吸着するケミカルフィルターによる空気清浄化や強制換気を行ってきましたが、ケミカルフィルターの圧力損失に伴う空調運転コストの増加、ケミカルフィルターへのアンモニア吸着によるフィルター性能の経年劣化、こうした理由によりフィルターを定期交換するコスト、といったさまざまな課題がありました。

  • <矢野>

    もし将来的に半導体製造施設に適用すれば、SUSMICS-Caはコンクリート中のバイオ炭がアンモニア吸着性能を持つため、発生源を抑え込むことができます。これにより、美術館・博物館と同様にコンクリート打設後の「枯らし期間」※2を短縮して早期供用を可能にすると期待されます。また、フィルターの寿命を延ばすことで運用コストを削減し、工場の歩留まり改善という「顧客の経営課題」へのソリューションにもつながります。

美術館・博物館と半導体製造施設の共通メリット

アンモニア濃度管理の目安は、美術館・博物館では30ppb以下(東京文化財研究所の推奨値)である一方、半導体製造施設では製造工程によって1ppb以下が求められることもある。

コンクリート打設後、アンモニア濃度を東京文化財研究所の推奨値(30ppb以下)まで低減させるための期間。文化財施設では打設後二夏以上の確保が目安とされている。

環境貢献と品質向上を両立する――SUSMICSシリーズが描く未来

  • ――

    最後にSUSMICSシリーズの今後の展望を教えてください。

  • 小島

    SUSMICSシリーズは、もともと「カーボンネガティブを実現する施工技術」として、2021年の着手から適用範囲を拡大してきました。

    しかし、我々の目標は単なる脱炭素だけではありません。「建築の付加価値そのものを高めること」です。そこで、室内環境制御技術を持つ矢野さん・冨田さんと対話する中で、今までにない解決策ができるのではないか、と技術を掛け合わせて生まれたのがSUSMICS-Caです。今後は、新築だけでなく改修工事における活用も積極的に提案していきます。

  • 山本

    私たちの強みは、開発して終わりではなく、常に現場のニーズを研究開発にフィードバックし、材料としての完成度を高め続けている点です。

  • 矢野・冨田

    現場での空気質モニタリングを通じて、この技術がどれだけ「枯らし期間」の短縮に寄与できるか検証していきます。加えて、新たに開発中のアンモニア濃度シミュレーションツールを用いた予実管理を行い、予測精度向上を追求していきます。

室内アンモニア濃度の経時変化シミュレーション(イメージ)
室内アンモニア濃度の経時変化シミュレーション(イメージ)

地球環境への貢献」と「建造物の品質向上」。この二つを高い次元で両立させる技術プラットフォームとして、SUSMICSシリーズはこれからも進化し続けます。ぜひ、今後の展開にもご期待ください。