2021.01.18

建設的な未来

清水建設×日本SF作家クラブ
建設的な未来

清水建設と日本SF作家クラブのコラボレーション企画「建設的な未来」は、これからの社会に起こりうる事柄に対する、よりよい未来の「建設」に向けて、私たちができるかも知れないこと、また、乗り越えた先にあるかも知れない世界をテーマにしたショートショートです。

第14話は江坂 遊さんの『ストップ弁の秘密』です。お楽しみください。

第14話
ストップ弁の秘密
江坂 遊

学生三人の見学は、トンネル工事現場とだけしか聞かされていなかった。まさか、地下にこんな巨大な施設があるとは思いも寄らないことだ。三人は今、それを目の前にして大きな口を開けたまま圧倒されていた。

「ドキドキ、ワクワクするだろう」

研究室の先輩が巨大設備を仰ぎ見ている(たく)(ろう)の肩を軽く叩いた。

「はい。伊藤先輩。でも、こんなに大きな弁があるとは驚きました」

拓朗は上を見上げて、「くしゅん」と小さなくしゃみをした。

「よくこれが弁だと分かったなぁ。さすがに先生は優秀な学生を鍛えておられる」

「伊藤主任、あのぅ、何がここを通るんですか?」

研究室の優等生の()(すみ)が案内をわざわざ買って出てくれた先輩に初めて質問をした。

香澄は居心地悪そうに身をすくめた。

「香澄さん、就職、これで決まりだな。来て、良かったじゃない」

そう冷やかしたのは、二人ほどには施設見学に興味がなかったのに、暇だからついてきた宏だ。

「きみはここで働きたいとは思わないのかい?」

伊藤先輩が宏の側まですり寄って来て、率直に尋ねた。

「まだわかりませんよ、そんな大事なこと。ここで、なんかとてつもない工事をやっているのはわかりますが、果たしてそれが社会にどんな役に立つものなのかまで想像ができなくて。でも、単なるトンネル工事かと思うと、あっ、そう。で終わるし」

伊藤先輩は顎をあげて豪快に笑いだした。

「ははは。なるほど。それはそうだ。きみ、面白いね。きみも先生からうちにと推薦されているんだがね。いい肩をしているんだって。因縁の機械科チームとの試合で完投勝利というのは快挙だ」

「先生、何でも話しているんですね」

「君らのことは筒抜けさ。拓朗くんは亡くなった野村さんのような頭脳派キャッチャーだと聞いている。二人が電気科ならではのバッテリーというのが面白い」

拓朗はポリポリと頭をかいた。

「野球ができればここへの就職、有利なんですか? わたしはチアをやっているので・・・」

香澄のその発言で全員が噴き出した。

しばらく続いた笑いが収まったところで、伊藤先輩は三人の顔を順に見ていき、真顔になってこう言った。

「じゃこれから、こんなところで何だが、面接試験だ。この弁の巨大なスイング部分は何を止めるためのものかを考えてほしい」

「いきなりの面接試験ですね。しかし難問です。うーん」

香澄が親指を噛んで、顔を伏せた。それは考え込む時の彼女のルーティンだ。

「たんなる汚水ではない。空気か? 台風の風をここに流し込んでタービンを回し、台風力発電。でも弁はいらないか。そうだ。電気の先輩なんだから、電流? でもこんなどでかいチューブが果たして必要かどうか。大型粒子加速器に弁はいるのかといったらいらないと思うし」

考えがまとまらない拓朗がだらだら発言しだすと、宏がそれを手で遮った。

「乗り物だ。あの弁は柔らかい。ほら、作業員が金属の塊を押し当てているが、弾力性に富んでいる。物流トラック専用の道路のトンネル工事で、ここは、あぁ、トラックが進む方向を制御しようとしているのかも知れない。事故か何かが起きたときに通せん坊をするような機構」

香澄が上気した顔で大きな声を出した。

「ドローンよ。ドローンが行き来するためのハイウェイ工事」

「物流。それで決まりだ」

三人は胸の前で、やったとばかりに拳を握った。

しかし、伊藤先輩は首を傾げたままで固まったままになっている。

「いいところまでは行った。さすがだと褒めてあげるよ。でも、それは正解ではない。答えはこの分ではいつまで経っても出そうにないから、お教えしよう。これはタイムマシン用のトンネルだ」

「タ・イ・ム・マ・シ・ン」

三人の開いた口が塞がらないのを見届けると、先輩は急に声のトーンを抑えて話し出した。

「そう。あのタイムマシンさ。タイムマシンが安全に時間を航行するための専用ハイウェイだ。ここのストップ弁は航行の流れは止めないがこの場所にはとどまれないようにする降り口用の装置というわけだ。今、丁度、定期点検工事期間に入っている。タイムマシンが発明されて、時間を航行している最中や降り口付近での接触事故、さらには困った奴らの過去を改変しようなんていう試みが多発してね。それらを回避するため、時間管理局による統制強化管理を目的としてこれが建設されている」

拓朗が目を吊り上げた。

「つまりこれ、タイムマシンが密かに発明されていて、過去を変えようって悪い奴らが来るのを防ぐ装置ってことですか? そんなまさか」

「タイムマシンの発明にはまだ数年かかる。もうちょっとある。そのあと時間管理局が管理するようになるまでの時代の人間は、まったく過去に対するマナーが悪くてね。じゃ、もう一つ質問してみようか。追試だ。ではこのストップ弁は西暦何年までの未来から過去への航行立ち寄りを止めようとしているかを当ててみてくれ。ヒントはカラーだ」