2026.07.27

開発者ストーリー

「DAC®コート」開発の鍵とは?
産学連携で挑んだ持続可能な未来への道

建設業界において、脱炭素化は待ったなしの課題です。その解決策の一つとして現在、社会的な関心を集めているのが、大気中のCO2を吸収・固定化する技術DAC(Direct Air Capture)です。

「街中のコンクリートが、CO2を吸収する『森』に変わる」―そんな未来を現実のものにするために、新設・既設を問わずコンクリート構造物をCO2の吸収体に変える技術「DACコート」を開発。その舞台裏を、関係者の声と共にご紹介します。

左から、技術研究所 建設基盤技術センター 革新材料グループ 齊藤 亮介、北海道大学 工学部 建築都市コース 北垣 亮馬 教授
左から、技術研究所 建設基盤技術センター 革新材料グループ 齊藤 亮介、
北海道大学 工学部 建築都市コース 北垣 亮馬 教授

産学連携が生んだブレイクスルー:北海道大学×清水建設の軌跡

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    DACコートの開発はどのように始まったのでしょうか。

コンクリートに対するCO2固定メカニズムを中心とした研究でDACコート開発をリードする 北海道大学 北垣教授
  • 北垣教授

    この技術開発の起点は2018年に遡ります。次世代材料開発を目的にスタートした共同研究でしたが、カーボンニュートラルへの社会的要請の高まりを受け、CO2削減を掲げた研究グループを発足したことが始まりでした。

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    これまでを振り返ると、最大のブレイクスルーはどこにあったと感じていますか?

コンクリートの鉄筋防食の研究開発を活かしDACコートの開発と実証を推進する齊藤
コンクリートの鉄筋防食の研究開発を活かしDACコートの開発と実証を推進する齊藤
  • <齊藤>

    当時、発電所や工場の排気ガスからCO2を回収する際に、アミン化合物を使用するという技術が実用化されていました。

    開発の契機になったのは、そのアミン化合物に着目した北垣先生が「コンクリートに適用してはどうか」と発想されたことです。

  • 北垣教授

    そもそもコンクリートは、何も塗布しなくても、大気からCO2を吸収する一方で、アルカリ性が失われて中性化し、内部鉄筋が腐食しやすくなるという問題があります。

    もしアミン化合物を塗布してCO2を促進的に固定できたとしても、コンクリートの中性化が進行し鉄筋が腐食すれば意味がありません。この問題を解決しないと、簡単には実用化できないと思っていました。そのときに齊藤さんが「鉄筋の防食効果を持つタイプのアミン化合物がありますよ」と勧めてくれました。

    新しいアイディアを後押しするこうした前向きな提案が、開発の大きな推進力になったと思います。

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    研究グループ内の役割分担は?

  • 北垣教授

    一口にアミン化合物といってもたくさんの種類があります。コンクリートへのCO2固定を想定したアミン化合物の利用は、世界的に見てもほとんど例がなく、どのようなアミン化合物が適しているのかを特定する必要がありました。そのため、セメントコンクリート、化学、金属といったさまざまな分野から同世代の専門家が研究グループに十数人集まって、意見を出し合いながらDACコートに使用するアミン化合物の選定や実験を行いました。

    その中で、北海道大学ではアカデミックの立場から、CO2固定評価に関して、評価方法設計、反応メカニズムの解明、材料の構造評価といったことに取り組みました。清水建設では鉄筋防食の評価に加え、現場でどのように活用するかという観点から施工あるいは管理方法の開発のほか、顧客ニーズ調査等を踏まえた社会実装に向けた戦略づくりに取り組んでもらいました。

実験室から屋外へ、そして「実際の建物」へ

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    実験室での成果を、どのように実環境へと展開していったのでしょうか?

  • 北垣教授

    実験室での評価には工夫が必要でした。標準のコンクリートの促進試験のルールにのっとってCO2濃度が大気の100倍という高濃度の環境で実験を行いましたが、実環境では、実験室とは異なる課題が見えてくることもありました。そこで、屋外でも並行して評価を行いました。

コンクリートに対するDACコートの浸透状況の非破壊判定を試行中
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    その後、2024年からは「東京ベイeSGプロジェクト」を通じた屋外評価に進まれたのですね。

  • <齊藤>

    東京ベイエリアの中央防波堤(東京都江東区)にコンクリートのモックアップを設置し、潮風に晒される環境下でのCO2固定量や防食効果のデータを取得しました。

    中央防波堤での実証には、これまでにラボで扱っていた試験体と比べ、ばらつきの大きい実規模サイズのコンクリート部材を用いました。また、風雨にさらされる実環境での実証であり、環境が安定したラボ評価とは大きく条件が異なりました。

    最大2年間という限られた期間ではありますが、そのような実環境下でDACコートの適用によるCO2固定効果が確認されたことは、非常に価値のある成果だと考えています。

潮風に晒される屋外環境下での実証(東京ベイエリア中央防波堤)
潮風に晒される屋外環境下での実証(東京ベイエリア中央防波堤)
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    2026年3月、初めての実建物への適用として、品川区第三庁舎の外壁面を用いた実証実験のフェーズへと移行しました。実際の現場に入ってみて、今後どのような課題が見えてきそうですか?

  • <齊藤>

    これからDACコートを適用していく既設コンクリート構造物は、それぞれコンクリートの配合や置かれている環境も異なります。そのため、DACコートの浸透しやすさも、構造物ごとに異なると考えられます。

    だからこそ、対象の状態に応じて、適切に内部に浸透させることが可能な施工方法が非常に重要になります。さらに、施工後の維持管理においては、一定時間が経過した際に、DACコートがコンクリート中にきちんととどまっているか、再施工が必要か、どの程度CO2が固定化されたのかといった情報を把握する必要があります。

    そこで、DACコートの浸透深さやコンクリートの炭酸化量を簡易に取得できる手法の検討を進めています。

品川区第三庁舎 DACコート塗布直後、濡れて色が暗くなっている壁(右側)
品川区第三庁舎 DACコート塗布直後、濡れて色が暗くなっている壁(右側)
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    そうした現場の課題に対して、異分野協働がどのように役立っているでしょうか?

  • 北垣教授

    現場で生じるさまざまな課題に対して前向きに取り組める背景には、本学が基礎研究で培ってきた理論的土台があります。メカニズムの根幹が科学的に検証されているからこそ、実際の環境下での応用や改善に自信を持って注力できるのは、産学連携の大きな強みとなっています。

目に見えないCO2固定量を「見える化」

現場での物理的な検証と並行して、デジタル面からのアプローチも進んでいます。東京ベイeSGプロジェクトでは、株式会社ゴーレムと協業し、DACコートによるCO2固定量を算出するシミュレータを開発しました。

目に見えないCO2固定効果を数値化し、直感的なカラーマップで可視化することで、建物のオーナーや自治体の導入判断を強力に後押しします。このシミュレータは、単体の建物から建物群まで幅広く計算可能です。

赤枠内の建物にDACコートを適用した場合のCO2固定量のシミュレーション(イメージ)供用期間中にどれくらいCO2固定効果が得られるかの算出が可能となる
赤枠内の建物にDACコートを適用した場合のCO2固定量のシミュレーション(イメージ)
供用期間中にどれくらいCO2固定効果が得られるかの算出が可能となる

株式会社ゴーレム 野村氏より

ゴーレムのシミュレーション技術は、これまで少なかった「建物単位」でのCO2吸収量をデジタルで可視化し、その価値を明確にします。北垣教授のアドバイスを得て、納得感のあるデータ提示を追求しました。今後もDACコートの社会実装を力強く後押しし、その価値を最大化していきたいと考えています。

未来への展望

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    DACコートは、コンクリートの未来にどのような役割を果たすでしょうか。

  • 北垣教授

    DACコートは、コンクリートのライフサイクル全体へ展開可能な技術です。

    構造物を作り、使い、そして解体するというあらゆる段階でCO2を吸収・固定する仕組みを構築できれば、脱炭素社会の実現に大きく貢献できると考えています。

  • ――

    今後、技術の普及を加速させるために、何が重要だと考えていますか。

  • 北垣教授

    吸収・固定したCO2をクレジット化し、その環境貢献を「見える化」することが極めて重要です。

    環境価値を客観的に評価し、経済的な付加価値として創出することで、技術の社会実装と普及を強力に後押しできると期待しています。

  • 齊藤

    DACコートをより広く普及させるために、誰でも簡単に施工でき、効果を安定して発揮できる製品にしていきたいと考えています。特別な技術がなくても適切に扱えるよう、製品仕様や使い方を工夫していきます。

    将来的には、ホームセンターなどで個人の方にも手に取っていただける製品にしたいと考えています。ご自宅のコンクリート部分に塗布していただくことで、CO2の吸収・固定をより身近な取り組みにし、誰もが日常の中で環境貢献に参加できる社会を目指します。

DACコートの社会実装に向けて、各関係者からも期待の声が寄せられています。

東京都 スタートアップ戦略推進本部様からひとこと

都が実施する「東京ベイeSGプロジェクト」は50年、100年先を見据えた持続可能な都市モデルを目指す取り組みです。中央防波堤での検証を経たDACコートが品川区役所という街中での実証へとステップアップできたことは、社会実装に向けた大きな契機です。今後も最先端技術のさらなる社会実装を後押ししていきます。

品川区役所様からひとこと

品川区は2050年ゼロカーボン、2030年カーボンハーフ達成に向け、脱炭素化を加速しています。東京都の「東京ベイeSGプロジェクト」を通じ先端技術研究に協力したい思いがあり、既存建物での研究が必要なDACコートに、建て替えを控えた庁舎が最適と考え提供しました。行政・都・民間・大学連携による本事業は、社会全体の環境対策の重要な一歩になると確信しています。