2021.02.24

先端技術探訪

建物を印刷?3Dプリンターが拓く建設の未来

建物を印刷?3Dプリンターが拓く建設の未来

ものづくりの分野ですっかり一般的になった3Dプリンター。ですが、建設用3Dプリンターというと、まだそれほど馴染みのない方も多いのではないでしょうか。樹脂や石膏などを積層していく一般的な3Dプリンターは、比較的小さな「部品スケール(cmオーダー)」を対象としているのに対して、建設用のそれは「部材スケール(mオーダー)」の造形が必要になります。素材もコンクリート・モルタル、金属、ガラスなど、より強度や耐久性、耐候性に優れ、既往の知見が活かせる建設材料の利用が求められます。今回はこの建設用3Dプリンターにまつわるトピックを見てみましょう。

なぜ、建設現場に3Dプリンターなのか

建設用3Dプリンターは、建設材料を使って部材スケールの造形を行うため、家庭用3Dプリンターのように箱の中で細いノズルを使って作ることはできません。自動車工場にあるような工業用のロボットアームの先に太いノズルをつけて、モルタルを押し出し積層するようなダイナミックなものになります。では、なぜ3Dプリンターが建設業界で注目されているのか。それは従来工法をまさに革新するポテンシャルを秘めているから。

まず、施工プロセスを大幅に短縮することが期待されています。一般的な鉄筋コンクリートの施工では、構造物の外型に沿って型枠を組み立てるとともに内部に鉄筋を建て込んだ上でコンクリートを型枠内に流し込み、コンクリート硬化後に型枠を解体・破棄すると言うのが一連のプロセスになります。これに対し、建設用3Dプリンターでは構造物そのものをデータに基づいて造形していくわけですから、プリンターを現場に設置してスイッチを押せば、以上、完了。必然的に省人化にもなります。積層するラインを、きちんとプログラムさえしてあれば、素人でも施工ができる(もちろん極端にいえばの話です)ので、熟練労働者不足の対策技術としても有望です。また、型枠などの廃材も減るため、CO2削減にもつながりサステナブルでもあります。さらにデザインの自由度も格段に向上します。これまでの構造物は基本的には直線が基調。これに対して3Dプリンターでは、積層ラインを少しずつずらしていくことで、曲面も自由自在に造形できるようになります。そしてこれらのメリットを低コストで享受できるのです。

家や橋。活用が進む建設用3Dプリンター

建設現場における3Dプリンターの活用は海外が先行しており、住宅や歩道橋などの社会インフラへの活用が進んでいます。それも、工場で部材をプリントし、それらを現場に運んで組み上げていくタイプから、現場に3Dプリンターそのものを運び込んで、その場でプリントしてしまうものなど、さまざまです。

ロシアでは2017年に建築現場に3Dプリンターを持ち込み、住宅を作ることに成功しています。しかもそこは-35℃という極寒の環境。そんな過酷な環境下でも、3Dプリンターはたったの1日で建屋自体のプリントを終えてしまったといいます。また、ドバイでは194坪・2階建ての住宅を1台の建設用3Dプリンターで作り上げた事例がありますし、オランダでは金属材料を使った橋の造形に成功しています。

翻って、世界有数の地震国である日本では、このような造形物を構造物として成立させるさせるには、補強方法などの点で課題が残り、建物を丸ごとプリントするような事例はまだ見られませんが、さまざまな領域でその活用が検討され始めています。

3Dプリンターは無限の可能性を秘めている

建設用3Dプリンターは、プリンター自体もそうですが、使用する材料などもイノベーションのスタート地点に着いたばかりと言えます。これまで建設分野では一般的ではなかった素材や工法を用いることで、今までになかったような機能や見映えを備える建物も登場してくるはずです。清水建設でも「ラクツム(LACTM)」という3Dプリントに最適化されたモルタルを開発し、来るべき3Dプリント時代に向けた準備を進めています。

数年前から製造業全般で注目されている「トポロジー最適化」というコンセプトがあります。これは、ある条件が与えられた場合の理想形(最も効率の良い材料の分布)を見出すという考え方です。実はこれまでの製品は、トポロジー的には最適化されておらず、少なからず無駄を内包していたと言えます。これには製造上の制約が起因しています。建設においては、鉄やコンクリートといった材料の特性、工事に使う治具や仮設材、コストも含んだ施工上の制約などが、この具現化を阻んできました。ここまで紹介してきたように、3Dプリンターならこのハードルを軽々と超えていくことができるでしょう。

短時間で施工できるということは、災害発生時に役立つ仮設住宅の建設にも威力を発揮しそうですし、プログラムさえあれば自働で施工できるメリットは、洋上や極地などの過酷な環境における建設にもうってつけです。そしてその究極は、やはり宇宙。トポロジー最適が実現できる3Dプリンターであれば、月や火星で、限られた現地の材料を無駄にすることなく基地やプラントを効率的に建設する――そんな未来は意外に遠くないのかもしれません。

野崎 優彦
さまざまな企業のコミュニケーション活動をお手伝いしているコピーライター。株式会社モーク・ツー所属。