「今でもなくここでもない、生きたい世界」へ
想像もつかなかった未来の世界を引き出す
「今でもなくここでもない、生きたい世界」へ 想像もつかなかった未来の世界を引き出す
1月から、SF作家 藤井太洋氏、イラストレータ加藤直之氏、株式会社東芝 CPSxデザイン部と当社のエンジニアがコラボし進めていた SFプロトタイピング。(第1回はこちらから)
冒頭の図形は、現在の世界から今後起こりうるかもしれない未来の世界を導き出すまでの思考の過程です。
SFプロトタイピングのワークショップで、4つのステップを経て導き出した、未来の世界とその過程をご紹介します。
Step01 コトバを見つける
清水建設のアイデンティティとなる情報(先端技術や特徴的な取り組み、企業文化や企業理念)と個人的に気になる様々な分野のウィークシグナル※に関する情報を収集。そこから未来につながるコトバを見つけていきます。
まだ表面化はされていないが、これから社会のトレンドや課題になっていくような、未来につながる事象。
アイデンティティとウィークシグナルから88のコトバが生まれました。
Step02 コトバを掛け合わせる
Step02では、 Step01で導き出した「清水建設のアイデンティティから見つけたコトバ」と「ウィークシグナルから見つけたコトバ」を掛け合わせて「ちょっとおかしな未来の造語」をつくりました。
Step03 掛け合わせたコトバから妄想する
Step3では、未来の造語からさらに妄想を膨らませるワークを行いました。ちょっとおかしな未来の造語をマンダラート(曼荼羅上に思考を展開する強制発想法)の中央に配置し、「この造語は何を意味しているか?」「この造語の世界の住人はどんな暮らしをしているのか?」「この造語はどんな産業・業界と関係しているか?」などを考察し、自由な発想で、今でもなくここでもない世界を妄想していきます。
そして生まれたのが、これら6つの世界です。
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Step04 妄想世界の舞台設定を深堀りする
最後は、Step03で見出した「今でもなくここでもない世界」について9つの切り口から舞台設定を深堀り考察し、その世界を確定させていきます。
9つの舞台設定
その世界の
- 日常や暮らし
- 科学技術
- 価値観
- 文化
- ルール・規範
- 抱える問題
- 目指す世界
- 勝ち組・受益者・共感者
- 負け組・被害者・反抗者
「今でもなくここでもない世界」からバックキャスト・フォアキャストを繰り返し、変化点を見出して線でつないでいきます。そして、自然科学・人文科学・社会科学の視点で分類した「今、ここにある世界」の代表的な構成要素がどんな変化を遂げれば、生きたい世界として妄想した「今でもなくここでもない世界」にたどり着くことが出来るのかを探っていきます。
「今でもなくここでもない世界」をバックキャストする過程で、実は「今ある世界」の一歩先にある「ここ」や「これ」といった兆しが形を変えて未来の世界に結びついているという気づきがありました。
最後に、描いたマップの中の変化点および構成要素を俯瞰して眺め、清水建設が影響を与え得る変化点や関与すべき変化点を考察しました。
今後は、この舞台設定を基に、藤井氏に小説を、加藤氏にイラストを制作してもらい、未来の世界を具現化します。
また、この舞台設定からバックキャストをすることで視野を広げ、エンジニアの研究開発に生かしていきたいと思います。
ワークショップに参加して
刺激のある内容でした。(作家 藤井 太洋氏)
ワークショップは刺激のある内容でした。
特に現場の声と矜持(ゼネコンはつくれるものしか設計しない)を聞くことができたのはよかったですね。コモンズや街、居場所、手なり(ヴァナクール建築へ)といったキーワードに強く反応してくださったのは嬉しいですね。宇宙ステーションを舞台に、シミュレーションを用いた「手の技」から発展していく建築チームという話をふと思いつきました。すでに住んでいる人の環境を変えていくことの難しさなども小説に盛り込めるといいなという感じです。
イメージが膨らみました。(イラストレータ 加藤 直之氏)
基本、僕の概念の想起は、「絵」であり、「動画」が中心です。今回のワークショップでは、聞き役に徹し、皆さんが想起されたコトバを聞きながらイメージを膨らませていました。下のイラストは、Step02でドリーム細胞というコトバから絵にしたものです。現在、ワークショップの舞台設定から絵を起こしているところですので、楽しみに待っていてください。
企業の枠を超えてプロフェッショナルの会話が交錯する体験は新鮮でした。(ファシリテータ 東芝・大向 真哉氏)
普段、東芝社内でも未来シナリオから事業戦略のロードマップまでを描く共創ワークはよく実施するのですが、SFというひとつのアウトプットを目指しながら、企業の枠を超えてプロフェッショナルの会話が交錯する体験は新鮮であり、そのプロセスや知見もこうやって公開するという先進的な活動となりました。今回設計したプロセスで、自分自身の思いつきから物語をかたち創る術と、その逆に空想の物語を因数分解し現実の世界とリンクさせる術をインストールできたと考えています。ここで生まれた“今でもなくここでもない、生きたい世界”を、数年後、数十年後、数百年後のそこにある世界に実装することがゴールです。清水建設様の匠の力を楽しみにしています。
清水建設 参加者より
普段考えない、理想を発散させた視点から必要なことを考えていく考え方のプロセスは、イノベーションを目指すテーマの起案時には良いと思いました。
研究開発にはある程度ストーリーも必要ではないか、あるいはストーリーを内外に発信していく必要があるのではと感じました。
SF作家さんのいるチームの議論を聞いていると、純粋に「こうなったらいいな」が多く話されていたように感じました。当社社員だけでの議論では「こういう技術があるからこうなるだろうな」の議論が多い中、とても刺激的でした。本来技術も目的があって使うものなので、作家の方の思考は我々設計者としては見習いたいと感じました。
今回の取り組みは、すぐに成果に繋がるものではないかもしれませんが、将来的に思考を飛躍させるのに有用なトレーニングなんだろうなと思いました。